交通事故で内臓に後遺障害が生じた場合|等級の認定基準は?
- 後遺障害
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埼玉県警察が交響している交通事故統計によると、令和3年に埼玉県内で発生した人身事故件数は、1万6356件でした。そのうち、所沢市内で発生した人身事故件数は、736件であり、これは、さいたま市、川口市、越谷市に次いで4番目に多い数字となっています。
交通事故によって、内臓が損傷してしまうと、さまざまな後遺症が生じてしまうことがあります。このような後遺症が生じた場合には、一定の要件を満たせば後遺障害等級認定を受けることができる可能性があります。
後遺障害等級認定を受けることによって、治療費、休業損害などの通常の損害に加えて、逸失利益や後遺障害慰謝料を請求することができますので、被害回復という観点からは、適切な後遺障害等級の認定を受けることが重要となります。
今回は、交通事故によって内臓に後遺障害が生じた場合の後遺障害等級認定の基準について、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
1、内臓(胸腹部臓器)の後遺障害等級一覧
内臓(胸腹部臓器)の後遺障害等級としては、介護を要する後遺障害かどうかに応じて、以下の別表第1と別表第2に分かれています。
別表第1(介護を要する後遺障害)
等級 | 介護を要する後遺障害 |
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第1級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
第2級2号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
別表第2(介護を要しない後遺障害)
等級 | 後遺障害 |
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第3級4号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
第5級3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
第7級5号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
第7級13号 | 両側の睾丸を失ったもの |
第9級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
第9級17号 | 生殖器に著しい障害を残すもの |
第11級10号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの |
第13級11号 | 胸腹部臓器の機能に障害を残すもの |
2、内臓(胸腹部臓器)の後遺障害認定の基準は?
胸腹部臓器の後遺障害認定基準は、「呼吸器」、「循環器」、「腹部臓器」、「泌尿器」、「生殖器」に分けて細かく定められています。以下では、臓器ごとの後遺障害認定基準について説明します。
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(1)呼吸器の障害
呼吸器に障害が残った場合には、動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果に応じて、以下のような後遺障害等級が認定されます。
動脈血酸素分圧 動脈血炭酸ガス分圧 限界値範囲内
(37Torr~43Torr)限界値範囲外
(37Torr以下、43Torr以上)50Torr(※)以下 常時介護:1級
随時介護:2級
その他:3級50Torr~60Torr 5級 常時介護:1級
随時介護:2級
その他:3級60Torr~70Torr 9級 7級 70Torr以上 非該当 11級 ※Torr=トル(動脈血等に含まれる気体の単位)
また、スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定結果が上記の認定結果を上回る場合には、以下の等級が認定されます。スパイロメトリーの結果 呼吸困難の程度 高 中 軽 %1秒量:35以下または
%肺活量:40以下常時介護:1級
随時介護:2級
その他:3級7級 11級 %1秒量:35~55または
%肺活量:40~60%1秒量:55~70または
%肺活量:60~80
さらに、動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果とスパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定結果では後遺障害等級の認定がされない場合であっても、呼吸機能の低下が認められ、運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能障害があると認められるものについては、第11級が認定されます。
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(2)循環器の障害
循環器の障害には、「心機能の低下」、「除細動器またはペースメーカーを植え込んだもの」、「房室弁または大動脈弁を置換したもの」、「大動脈に解離を残すもの」の4つがあります。
① 心機能の低下等級 後遺障害 第9級 おおむね6METs(※)を超える強度の身体活動が制限されるもの
(例)平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上がるという身体活動が制限されるもの第11級 おおむね8METsを超える強度の身体活動が制限されるもの
(例)平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上がるという身体活動に支障がないものの、それ以上激しいか、急激な身体活動が制限されるもの※METs=メッツ(安静時に摂取可能な酸素量を表す数値の単位)
② 除細動器またはペースメーカーを植え込んだもの等級 後遺障害 第7級 除細動器を植え込んだもの 第9級 ペースメーカーを植え込んだもの
③ 房室弁または大動脈弁を置換したもの
等級 後遺障害 第9級 房室弁または大動脈弁を置換して、継続的に抗凝血薬療法を行うもの 第11級 房室弁または大動脈弁を置換したものの、継続的に抗凝血薬療法を行わないもの
④ 大動脈に解離を残すもの
等級 後遺障害 第11級 大動脈に偽腔開在型の解離を残すもの -
(3)腹部臓器の障害
腹部臓器の障害には、「食道の障害」、「胃の障害」、「小腸の障害」、「大腸の障害」、「肝臓の障害」、「胆のうの障害」、「すい臓の障害」、「ひ臓の障害」、「腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニアまたは内ヘルニアを残すもの」の9つがあります。
① 食道の障害等級 後遺障害 第9級 食道の狭窄(きょうさく)による通過障害を残すもの
② 胃の障害
胃の障害は、胃の切除によって生じる症状の有無に応じて、以下のような後遺障害等級が認定されます。等級 消化吸収障害 ダンピング症候群 胃切除後逆流性食道炎 7級 〇 〇 〇 9級 〇 〇 × 〇 × 〇 11級 〇 × × × 〇 × × × 〇 13級 噴門部または幽門部を含む胃の一部を亡失したもの
③ 小腸の障害
小腸を大量に切除した場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。等級 後遺障害 第9級 残存する空腸および回腸の長さが100cm以下となったもの 第11級 残存する空腸および回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの(低体重等が認められるものをいう)
小腸を切除したことにより人工肛門を造設した場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第5級 小腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチなどの装着ができないもの 第7級 上記に該当しないもの
小腸皮膚瘻がある場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第5級 瘻孔から小腸内容の全部または大部分が漏出するものであり、小腸皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチなどの装着ができないもの 第7級 瘻孔から小腸内容の全部または大部分が漏出するものであり、5級に該当しないもの 瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね100ml/日以上であって、パウチなどによる維持管理が困難なもの 第9級 瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね100ml/日以上であるものの、第7級に該当しないもの 第11級 瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する程度のもの
小腸の狭窄を残す場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第11級 小腸の狭窄があるもの
④ 大腸の障害
大腸を大量に切除した場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。等級 後遺障害 第11級 結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したもの
大腸を切除したことにより人工肛門を造設した場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第5級 大腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチなどの装着ができないもの 第7級 上記に該当しないもの
大腸皮膚瘻がある場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第5級 瘻孔から大腸内容の全部または大部分が漏出するものであり、大腸皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチなどの装着ができないもの 第7級 瘻孔から大腸内容の全部または大部分が漏出するものであり、5級に該当しないもの 瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね100ml/日以上であって、パウチなどによる維持管理が困難なもの 第9級 瘻孔から漏出する大腸内容がおおむね100ml/日以上であるものの、第7級に該当しないもの 第11級 瘻孔から少量ではあるが明らかに大腸内容が漏出する程度のもの
大腸の狭窄を残す場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第11級 大腸の狭窄があるもの
便秘を残す場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第9級 用手摘便を要すると認められるもの 第11級 上記に該当しない便秘
便失禁を残す場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第7級 完全便失禁を残すもの 第9級 常時おむつの装着が必要なもの 第11級 常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるもの
⑤ 肝臓の障害
等級 後遺障害 第9級 肝硬変(ウイルスの持続感染が認められ、かつAST・ALTが持続的に低値であるもの) 第11級 慢性肝炎(ウイルスの持続感染が認められ、かつAST・ALTが持続的に低値であるもの)
⑥ 胆のうの障害
胆のうを失った場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。等級 後遺障害 第13級 胆のうを失ったもの
⑦ すい臓の障害
等級 後遺障害 第9級 外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるもの 第11級 外分泌機能の障害または内分泌機能の障害のいずれかが認められるもの 第12級または第14級 軽微なすい液瘻を残したために、皮膚に痛みが生じるもの
⑧ ひ臓の障害
ひ臓を失った場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。等級 後遺障害 第13級 ひ臓を失ったもの
⑨ 腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニアまたは内ヘルニアを残すもの
腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニアまたは内ヘルニアが残った場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。等級 後遺障害 第9級 常時ヘルニアの脱出・膨隆が認められるもの、もしくは、立位をしたときにヘルニアの脱出・膨隆が認められるもの 第11級 重激な業務に従事した場合など腹圧が強くかかるときにヘルニアの脱出・膨隆が認められるもの -
(4)泌尿器の障害
泌尿器の障害には、「腎臓の障害」、「尿管、膀胱および尿道の障害」の2つがあります。
① 腎臓の障害
腎臓の障害は、腎臓の亡失の有無およびGFRによる腎機能低下の程度に応じて、以下のような後遺障害等級が認定されます。
腎臓を失った場合等級 後遺障害 第7級 GFRが30ml/分を超え50ml/分以下のもの 第9級 GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のもの 第11級 GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のもの 第13級 上記に該当しないもの
腎臓を失っていない場合
等級 後遺障害 第9級 GFRが30ml/分を超え50ml/分以下のもの 第11級 GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のもの 第13級 GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のもの
② 尿管、膀胱および尿道の障害
尿路変更術を行った場合には、以下の後遺障害等級が認定されます。等級 後遺障害 第5級 非尿禁制型尿路変更術を行ったもので、尿が漏出しストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パッドなどの装着ができないもの 第7級 非尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、5級に該当しないもの 尿禁制型尿路変更術を行ったもので、禁制型尿リザボア術式を行ったもの 第9級 尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、禁制型尿リザボアおよび外尿道口形成術を除くもの 第13級 尿禁制型尿路変更術を行ったもののうち、外尿道口形成術を行ったもの -
(5)生殖器の障害
生殖器の障害は、生殖機能への影響の程度に応じて、以下の後遺障害等級が認定されます。
等級 後遺障害 第7級 生殖機能を完全に喪失したもの 第9級 生殖機能に著しい障害を残すもの 第11級 生殖機能に障害があるもの 第13級 生殖機能に軽微な障害があるもの
3、内臓(胸腹部臓器)の後遺障害による慰謝料は?
内臓(胸腹部臓器)の後遺障害等級認定を受けた場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。その際の慰謝料の算定基準には、以下の3つの基準が存在しています。
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(1)自賠責保険基準
自賠責保険とは、交通事故による被害者を救済することを目的とした保険であり、すべての車やバイクに加入が義務付けられている保険です。
交通事故の被害者は、加害者が加入する任意保険会社と示談をする前であっても、自賠責保険から賠償金の支払いを受けることができますが、その際に慰謝料などの賠償金の計算に用いられるのが自賠責保険基準です。
自賠責保険基準は、交通事故に対する補償を迅速かつ公平に行うための簡易的な計算方法となりますので、自賠責保険基準による慰謝料額は、他の2つの基準に比べて低くなる傾向にあります。 -
(2)任意保険基準
任意保険基準とは、加害者の任意保険会社が被害者に対して慰謝料などの賠償金を支払う際の計算に用いられる基準です。任意保険基準は、各任意保険会社が独自に設定している基準であり、外部には公表されていませんので詳細な算定方法についてはわかりません。
一般的には、自賠責保険基準と裁判所基準の間くらいの金額になることが多いです。 -
(3)裁判所基準(弁護士基準)
裁判所基準とは、過去の交通事故の裁判例の集積をもとにして基準化された賠償額の算定基準です。交通事故の裁判で用いられることから「裁判所基準」と呼ばれていますが、弁護士が保険会社との示談交渉で用いる基準でもあることから「弁護士基準」とも呼ばれています。
慰謝料の3つの算定基準のうち、この裁判所基準が最も高い金額を請求することができる基準となります。しかし、裁判所基準を利用するためには、交通事故の裁判を起こすか、弁護士に依頼して示談交渉を行う必要があります。
4、交通事故に遭ったら弁護士へご相談を
交通事故の被害にあった場合には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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(1)保険会社との交渉をサポート
交通事故の被害者は、保険会社の担当者との間で示談交渉などの話し合いを進めていかなければなりません。保険会社の窓口は、基本的には平日のみしか対応していませんので、会社勤めの方だと、保険会社と連絡をとるだけでもストレスを感じることが多いでしょう。
また、保険会社の担当者は、交通事故の事案を複数扱っていますので、被害者との間には、知識や経験に大きな格差があります。そのため、示談交渉に不慣れな被害者では、不利な示談条件を押し付けられてしまう危険もあります。
弁護士に依頼をすれば、面倒な保険会社とのやり取りをすべて任せることができますので、保険会社との交渉に要するストレスも大幅に軽減されます。弁護士は被害者にとって最大限有利になる条件で示談交渉を進めていくことが可能です。 -
(2)後遺障害認定をサポート
後遺障害が認定された場合には、後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができますので、被害者が受け取ることができる賠償額が大きく変わってきます。
後遺障害の等級認定を受けるためには、加害者の保険会社がすべての手続きを行う「事前認定」と被害者がすべての手続きを行う「被害者請求」という2つの方法があります。
提出する書類が同じであれば、どちらのルートであっても結果は変わりませんが、事前認定による方法では、保険金を支払う保険会社が手続きをすることになりますので、被害者にとって有利な認定を受けることができるように積極的に動いてくれるとは限りません。
適切な等級認定を受けるためには、被害者請求の方法によって行うことが大切です。弁護士に依頼をすれば、複雑な被害者請求の手続きについてもすべてサポートしますので、被害者自身の負担はほとんどありません。 -
(3)慰謝料を増額することが期待できる
慰謝料の算定基準には、自賠責保険基準、任意保険基準、裁判所基準という3つの基準がありますが、被害者にとって最も有利な金額となる基準は、裁判所基準です。
裁判所基準を利用して示談交渉を行うことができるのは、弁護士に依頼をした場合に限られます。そのため、少しでも多くの慰謝料を獲得したいという場合には、弁護士への依頼が不可欠となります。
5、まとめ
交通事故によって内臓に損傷が生じた場合には、損傷の部位および程度によって後遺障害が認定される可能性があります。内臓の後遺障害については、各部位ごとに細かい基準が設定されていますので、適切な等級認定を受けるためには、後遺障害等級認定の手続きに詳しい弁護士に相談をすることが大切です。
交通事故の被害にあってお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスまでお気軽にご相談ください。
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