特別代理人は誰がなれる? 選任が必要なケースや選任手続きについて
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令和元年度の司法統計のうち「家事審判・調停事件の事件別新受件数 家庭裁判所別」によると、さいたま家庭裁判所での令和元年度の特別代理人の選任(利益相反)件数は、558件でした。
被相続人が亡くなった場合には、相続人全員による遺産分割協議を行うことになりますが、相続人のなかに未成年者や認知症の方がいる場合には、「特別代理人」の選任が必要になることがあります。特別代理人を選任することなく遺産分割協議を成立させたとしても、当該遺産分割協議は無効になってしまいますので、どのようなケースで特別代理人が必要になるのかを正確に理解しておくことが重要です。
今回は、特別代理人の選任が必要なケースや誰が特別代理人になることができるかなど、特別代理人に関する問題についてベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
1、特別代理人とは
特別代理人とは、本来の代理人がその代理権を行使できない事情や代理権を行使することが不適切な事情などがある場合に、家庭裁判所によって選任される代理人のことをいいます。
具体的なケースについては後述しますが、特別代理人が選任されるのは、本人と代理人との間に利益相反がある場合です。
たとえば、父親が死亡して、母親と未成年の子どもが相続人になるケースでは、法定代理人である母と未成年者との利害関係が衝突することになります。
このような場合には、未成年者の子どもの利益を守るために特別代理人の選任が必要です。遺産相続の場面では、家庭裁判所によって選任された特別代理人が遺産分割協議に参加して、遺産分割協議書への署名押印などの手続きを行うことになります。
なお、特別代理人は、特定の手続きに関してのみ特別に選任される代理人です。そのため、親権者や成年後見人のような包括的な代理権は有しておらず、決められた手続き以外の代理行為は行うことができません。
そして、特別代理人選任の理由となった手続きが終了した場合には、特別代理人の任務は終了します。
2、特別代理人は誰がなれる?
特別代理人の選任が必要になった場合には、誰が特別代理人になることができるのでしょうか。また、身近に特別代理人を頼めそうな人がいない場合にはどうすればよいのでしょうか。
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(1)特別代理人には特別な資格は必要ない
特別代理人には、特別な資格は要求されていませんので、特別代理人の選任対象となる本人との間に利害関係がない方であれば誰でもなることができます。そのため、遺産相続の場面では、法定相続人以外の親族や友人を特別代理人にするということが多いでしょう。
親族や友人を特別代理人に選任する場合には、特別代理人の選任申立書の候補者欄に親族や友人を記載することになります。しかし、候補者を記載したとしても、家庭裁判所の裁判官が当該候補者では適任ではないと判断した場合には、裁判所が指定した弁護士が特別代理人になることもあります。
そのため、必ずしも希望する候補者が特別代理人になれるわけではありませんので注意しましょう。 -
(2)弁護士を特別代理人にすることも可能
特別代理人が必要になったとしても、身近に頼れる親族や友人がいないということもあります。また、遺産相続は、相続人同士で争いが生じることもあるため、親族や友人には頼みづらいということもあるかもしれません。
候補者が見つからないという場合には、申立書の候補者の欄を空欄にしておくということもできますが、その場合には、家庭裁判所の裁判官が弁護士などを特別代理人に選任することになります。
しかし、家庭裁判所によって選任される特別代理人だと、どのような弁護士が選任されるかがわからないため、場合によっては相性が合わないなどの問題が生じることもあります。そのため、適任者がいないという場合には、特別代理人の選任申立手続きを依頼した弁護士に特別代理人をお願いするという方法も有効です。
ご自身が選んだ弁護士であれば、特別代理人の選任申立から特別代理人の職務まで安心して任せることができるといえるでしょう。
3、特別代理人が必要となるケース
相続手続きにおいて特別代理人の選任が必要になるのは、以下のようなケースです。
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(1)親と未成年者がともに相続人になるケース
民法上、未成年者は、有効に法律行為をすることができないとされています。遺産分割協議も法律行為の一種ですので未成年者だけでは遺産分割協議を行うことができません。この場合には、未成年者の法定代理人である親が未成年者に代わって遺産分割協議を行うことになります。
しかし、先述のとおり、父親が死亡して、母親と未成年の子どもが相続人になるケースでは、法定代理人である母と未成年者との利害関係が衝突することになります。
このような場合に、母が子どもの法定代理人として遺産分割協議に参加すると、子どもの利益を無視して自己に有利な内容で遺産分割協議を成立させるおそれがあります。
そのため、親と未成年者がともに相続人になるようなケースでは、未成年者の子どものために特別代理人の選任が必要になるのです。
なお、特別代理人が必要かどうかは、客観的にみて利益相反があるかどうかで判断しますので、たとえ、親が公平な遺産分割協議を成立させたとしても、特別代理人の選任が不要になるわけではありません。 -
(2)複数の未成年者が相続人になるケース
親が相続人とはならず、子どもだけが相続人になるケースでは、親と子どものとの間に利害関係の衝突は生じませんので、原則として、特別代理人の選任は不要です。
しかし、複数の未成年者が相続人になるケースで、親権者を共通にする場合には、当該親権者が相続人ではなかったとしても特別代理人の選任が必要になります。なぜなら、親が複数の子どもの法定代理人として遺産分割協議に参加した場合には、どちらか一方の子どもに多くの相続財産を渡し、他方の子どもに不利益を与える可能性があるからです。 -
(3)成年後見人と成年被後見人がともに相続人になるケース
認知症などによって判断能力が低下した場合には、本人に代わって法律行為や財産管理などを行うために成年後見人が選任されます。認知症の本人(成年被後見人)が相続人になる場合には、成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することになります。
しかし、成年後見人も当該相続において相続人になるという場合には、成年被後見人と成年後見人の利害関係が衝突することになりますので、特別代理人の選任が必要になります。
ただし、成年後見監督人が選任されている場合には、成年後見監督人が代理人として手続きを進めることができますので、特別代理人の選任は不要になります。
4、特別代理人を選定する流れ・手続き
特別代理人の選任が必要になった場合には、以下のような流れで特別代理人の選任を行います。
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(1)遺産分割協議書案の作成
特別代理人の選任の申立時には、どのような内容で遺産分割を行うかという遺産分割協議書の案が必要になります。
特別代理人の選任にあたっては、家庭裁判所の裁判官が申立書に記載された候補者が適任であるかを審査することになります。候補者が適任であるかどうかについては、どのような遺産分割を予定しているのかを把握しなければ適切な判断を下すことができません。そのため、特別代理人の選任申立をする時点では、すでに遺産分割協議書案が固まっている必要があるのです。
仮に、遺産分割協議書の内容が特別代理人の選任対象となる成年被後見人や未成年者に不利な内容であった場合には、特別代理人の選任申立が認められないこともありますので注意が必要です。 -
(2)特別代理人選任の申立
特別代理人を選任する場合には、申立人が申立先の家庭裁判所に必要書類を提出し、家庭裁判所が特別代理人を選任します。
① 申立人
特別代理人の選任申立をすることができるのは、親権者がまたは利害関係人です。利害関係人とは、当該相続における他の相続人などのことをいいます。
② 申立先
特別代理人の選任申立は、未成年者である子どもの住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てをします。
③ 申し立てに必要な費用
特別代理人の選任申立にあたっては、以下の費用が必要になります。- 収入印紙 800円分(子ども1人につき)
- 連絡用の郵便切手(金額や組み合わせは申し立てをする裁判所に確認してみてください)
④ 申し立てに必要な書類
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者または未成年後見人の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
- 利害関係を証する資料(戸籍謄本など)
5、まとめ
未成年者とその親がともに相続人になるケースなど、本人と代理人との間で利害関係の衝突が生じる場合には、特別代理人の選任が必要になります。特別代理人は、特別な資格が必要ありませんので、親族などにお願いしてなってもらうことが多いですが、気軽に頼める親族がいない場合には、弁護士などの専門家にお願いするという方法も有効です。
弁護士に依頼をすることによって、特別代理人の選任申立からその後の遺産分割までトータルにサポートしてもらうこともできます。
特別代理人の選任をお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています