遺留分権利者の範囲と請求手続き|相続人が知っておくべき基礎知識

2024年10月23日
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遺留分権利者の範囲と請求手続き|相続人が知っておくべき基礎知識

被相続人が遺言書を残して亡くなった場合、遺産は、遺言書の内容に従って分けることになります。しかし、遺言書の内容が不公平な内容であったら、納得できない相続人もいるでしょう。

そのような場合には、「遺留分侵害額請求」をすることで、自分が受け取る権利がある遺留分に相当する金銭を取り戻すことが可能です。ただし、遺留分を請求できる相続人の範囲や割合は、法律上明確に決められていますので、誰でも請求できるというわけではありません。

今回は、相続人が知っておくべき基礎知識として、遺留分権利者の範囲と請求手続きをベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。


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1、遺留分権利者とは? 遺留分を請求できる相続人の範囲

遺留分はどの範囲の相続人に認められるのでしょうか。以下では、遺留分を請求できる相続人の範囲について説明します。

  1. (1)遺留分権利者とは

    遺留分権利者とは、法律上保障されている「遺留分」を請求する権利を有する相続人をいいます。遺留分とは、相続が発生したときに、相続人が最低限承継できる遺産の取得割合をいいます。

    相続人には、法定相続分が認められていますが、遺言によっては、法定相続分を下回る遺産相続となることもあります。

    しかし、一家の経済的柱であった父が亡くなった場合、その妻や子どもは、遺産相続に関する一定の期待があるでしょう。このような期待を保護するため、遺言によっても奪うことができない最低限の遺産の取得割合を定めたものが「遺留分」になります。

    遺留分権利者は、遺留分侵害額請求権を行使することで、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます

  2. (2)遺留分を請求できる相続人の範囲

    遺留分を請求できる相続人の範囲は、民法により明確に定められています。以下、ご自身が遺留分を請求できる相続人の範囲に該当するか確認することが重要です。

    ① 遺留分を持つ法定相続人

    • 配偶者
    • 子どもや孫(直系卑属)
    • 両親(直系尊属)


    遺留分が認められるのは、上記の範囲の相続人になります。
    遺留分が認められる子どもが被相続人よりも先に死亡し、孫(子どもの子ども)がいる場合には、代襲相続により孫が相続人となり、同様に遺留分も認められます。また、さらに孫が被相続人よりも先に死亡し、ひ孫(孫の子ども)がいる場合には、再代襲相続によりひ孫が相続人となり、遺留分を請求することができます。

    ② 遺留分を持たない相続人

    • 兄弟姉妹
    • 甥姪


    上記の相続人には、遺留分は認められません。
    兄弟姉妹は、被相続人との関係性が遠く、被相続人の遺産に対する期待もそこまで大きくないことから相続人であっても遺留分は認められません。また、代襲相続により甥姪が相続人になる場合でも、同様に遺留分は認められません。

2、法定相続分とは違う? 遺留分に含まれるものの範囲との割合

遺留分と法定相続分とではどのような違いがあるのでしょうか。以下では、遺留分と法定相続分の違い、遺留分に含まれるものの範囲と割合について説明します。

  1. (1)法定相続分と遺留分の違い

    法定相続分とは、民法で定められている法定相続人が相続財産を相続する割合をいいます。被相続人の遺言がない場合には、相続人による遺産分割協議で遺産を分けることになりますが、その際に基準になるのが法定相続分です。

    ただし、法定相続分は、あくまでも目安にすぎませんので、相続人全員の同意があれば、法定相続分とは異なる遺産の分け方も可能です。

    法定相続分と遺留分とでは、主に以下のような違いがあります。

    ① 範囲
    法定相続分は、以下の範囲の法定相続人に認められています。

    • 配偶者
    • 子ども(直系卑属)
    • 両親(直系尊属)
    • 兄弟姉妹


    他方、遺留分は、兄弟姉妹には認められていませんので、「範囲」という面で両者は異なっています。

    ② 場面
    法定相続分は、遺産分割を行う場面で用いられる基準であるのに対して、遺留分は、不公平な遺贈や贈与があった場面で用いられる基準になります。

    ③ 割合
    遺留分の基本的な割合については、後述しますが、遺留分と法定相続分では法律上保障されている割合が異なります。遺留分は、最低限の遺産の取得割合になりますので、法定相続分よりも低い割合となります

  2. (2)遺留分の基本的な割合

    遺留分の割合は、誰が相続人になるかによって、以下のように定められています。

    • 父母などの直系尊属のみが相続人になるケース:法定相続分×3分の1
    • それ以外のケース:法定相続分×2分の1


    相続人の組み合わせによって、各相続人の遺留分の具体的な割合(個別的遺留分)は異なり、具体的には、以下のようになっています。

    相続人 遺留分 各相続人の個別的遺留分
    配偶者のみ 1/2 配偶者:1/2
    配偶者と子ども 配偶者:1/4、子ども:1/4(子どもの人数で均等に分割)
    配偶者と親 配偶者:2/6、親:1/6(親の人数で均等に分割)
    子どものみ 子ども:1/2(子どもの人数で均等に分割)
    親のみ 1/3 親:1/3(親の人数で均等に分割)

3、遺留分の計算方法

遺留分の計算は、以下の計算式で算出します。

遺留分の基礎となる財産×個別の遺留分割合


本章では、遺留分の計算方法を3つのステップに分けて説明します。

  1. (1)遺留分の基礎となる財産を計算

    遺留分の基礎となる財産は、以下の計算式により計算します。

    遺留分の基礎となる財産=相続開始時の財産+生前に贈与された財産+遺贈された財産-債務


    なお、「生前に贈与された財産」とは、以下のものをいいます。

    • 相続人に対する相続開始前10年以内になされた生前贈与
    • 相続人以外の人に対する相続開始前1年以内になされた生前贈与
  2. (2)個別の遺留分割合を計算

    遺留分権利者に保障されている遺留分は、誰が相続人になるかによって異なってきます。具体的な相続の場面に応じて、正しい遺留分割合を選択して、各相続人の個別的遺留分割合を計算します。

    なお、各相続人の個別的遺留分割合については、2章の「(2)遺留分の基本的な割合」をご参照ください。

  3. (3)遺留分の金額を計算

    上記の2つの項目が明らかになったら、それぞれを掛け算して遺留分の金額を計算します。

    具体的に、以下のケースを想定して遺留分を計算してみましょう。

    • 相続人:親が亡くなった、長男A、二男B、長女C
    • 相続財産:3000万円
    • 遺言:Bに対してすべての遺産を相続させる


    遺留分を侵害されたAおよびCの遺留分は、以下のように計算します。

    ① 遺留分の基礎となる財産を計算
    上記のケースでは、3000万円が遺留分の基礎となる財産になります。

    ② 個別の遺留分割合を計算
    AおよびCの個別的遺留分は、以下のようになります。

    • A:1/6
    • C:1/6

    ③ 遺留分の金額を計算
    AおよびCの遺留分の金額は、以下のようになります。

    • A:3000万円×1/6=500万円
    • C:3000万円×1/6=500万円

    したがって、このケースでは、AおよびCは、Bに対して500万円ずつの遺留分侵害額請求を行うことができます。

4、遺留分の請求手続き

遺留分を侵害された場合、遺留分侵害額請求をすることにより、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。以下では、このような遺留分の請求手続きについて説明します。

  1. (1)内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示

    遺留分権利者は、相続開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈がったことを知ったときから1年以内に遺留分侵害額請求の意思表示を行わなければなりません。

    遺留分侵害額請求の意思表示は、口頭でも行うことができますが、後で「いった、いわない」のトラブルになる可能性がありますので、必ず配達証明付きの内容証明郵便を利用して行うようにしましょう。

    内容証明郵便は、送付した日付や内容を郵便局が証明してくれるサービスです。有料(480円)で誰でも利用することができます。

  2. (2)当事者同士での話し合い

    内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思表示を行った後は、当事者同士の話し合いにより侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを求めていきます。

    当事者同士の話し合いで合意に至ったときは、口約束だけで終わらせるのではなく、必ず合意書などの書面を作成するようにしましょう。

  3. (3)遺留分侵害額の請求調停

    当事者同士の話し合いで解決できないときは、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てを行います。

    遺留分に関する争いに関しては、調停前置主義が適用されますので、交渉が決裂したからといっていきなり裁判を起こすことはできず、裁判の前に調停を申し立てる必要があります。

    調停では、裁判官や調停委員が助言や解決案の提示などを行ってくれますので、当事者同士の話し合いよりもスムーズな解決が期待できるでしょう。

    なお、遺留分侵害額の請求調停の申立てにあたっては、管轄の家庭裁判所に以下の書類を提出する必要があります。

    • 申立書
    • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本
    • 相続人全員の戸籍謄本
    • 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
    • 遺産に関する証明書(固定資産評価証明書、不動産登記事項証明書、預貯金通帳の写しなど)
  4. (4)遺留分侵害額請求訴訟

    調停でも解決できないときは、最終的に裁判所に遺留分侵害額請求訴訟を提起することになります。

    訴訟では、遺留分権利者の側で遺留分が侵害されたことおよびその金額を立証していかなければなりません。不慣れな場合、適切に訴訟手続きを進めていくことが難しいため、できるだけ弁護士にサポートを受けることをおすすめします

    なお、遺留分侵害額請求訴訟では、以下の書類が必要になります。

    • 訴状
    • 戸籍関係(被相続人の除籍謄本や相続人全員の戸籍謄本)
    • 遺産に関する書類(不動産登記簿謄本、預貯金の写し、証券口座の明細書など)
    • 債務に関する書類(住宅ローンや借用書など)
    • 遺言書の写し

5、まとめ

不公平な遺言により遺留分が侵害されていることが判明したら、遺留分侵害額請求を行う必要があります。遺留分侵害額請求は、1年という非常に短い期間が定められており、遺留分の計算も非常に複雑なものとなっています。

一般の方では、遺留分の請求手続きを適切に対応するのが困難といえますので、早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです

弁護士であれば、遺留分権利者に代わって遺留分の請求手続きを行うことができますので、適正な遺留分を取り戻せる可能性が高くなります。

遺留分侵害額請求をお考えの方は、まずはベリーベスト法律事務所 所沢オフィスまでお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています