総体的遺留分とは|個別的遺留分との違いや遺留分に関する注意点

2024年10月30日
  • 遺産を受け取る方
  • 総体的遺留分
総体的遺留分とは|個別的遺留分との違いや遺留分に関する注意点

被相続人が遺言書を残していた場合、遺言書にしたがって相続財産を分けることになります。しかし、遺言書によっては、相続人に保障されるはずの最低限の財産(遺留分)を侵害する内容になっていることもあります。

このような場合には、遺留分侵害額請求で財産を取り戻すことが可能ですが、遺留分の計算には、「総体的遺留分」や「個別的遺留分」という概念の理解が必要です。

今回は、総体的遺留分と個別的遺留分の違い、遺留分を請求する流れや注意点などについて、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。


遺産相続を弁護士に相談 遺産相続を弁護士に相談

1、総体的遺留分とは

総体的遺留分とはどのようなものなのでしょうか。以下では、総体的遺留分を含む遺留分の基本についてみていきましょう。

  1. (1)そもそも遺留分とは

    遺留分とは、民法上、特定の相続人に保障されている最低限度の相続分を指します。遺留分が保障されていることにより、不公平な内容の遺言が残されていたとしても、遺留分を侵害された相続人は、最低限の遺産を確保することができます。

    遺留分は、被相続人(亡くなった人)の財産を受け継ぎ、相続人が最低限の生活をすることを保障する重要な制度です。

  2. (2)法定相続分とは

    法定相続分とは、民法で定められた遺産相続の基本となる割合で、遺言がない場合に適用されます。

    たとえば、具体的な法定相続分は以下の通りです。

    ・ 配偶者と子どもが相続人の場合
    配偶者が2分の1、子どもが残りの2分の1を均等に分ける

    ・ 配偶者と直系尊属(親や祖父母など)が相続人の場合
    配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1を分ける

    ・ 配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合
    配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1を分ける


    法律上保障されている遺留分とは異なり、遺言書や相続人全員の合意で法定相続分を排除することも可能です

  3. (3)総体的遺留分・個別的留分とは

    遺留分には、「総体的遺留分」と「個別的遺留分」という2つの考え方があります。遺留分を計算する際に必要となる考え方ですので、しっかりと押さえておくことが大切です。

    ① 総体的遺留分
    総体的遺留分とは、遺留分権利者全体に認められる遺留分の割合をいいます。民法では、総体的遺留分の割合を以下のように定めています。

    • 直系尊属(親や祖父母)のみが相続人の場合:相続財産の3分の1
    • それ以外の場合:相続財産の2分の1


    ② 個別的遺留分
    個別的遺留分とは、遺留分権利者個々人に認められている遺留分の割合をいいます。個別的遺留分は、総体的遺留分に各遺留分権利者の法定相続分を乗じて計算します。

2、遺留分の権利を持つ相続人と遺留分割合

遺留分は、すべての相続人に認められているわけではありません。遺留分の権利を持つ相続人(遺留分権利者)と遺留分割合は、法律上明確に定められていますので、誰がどのような割合で遺留分を請求できるかを押さえておきましょう。

  1. (1)遺留分の権利を持つ人とは

    遺留分の権利を持つ人のことを「遺留分権利者」といいます。法定相続人であってもすべての人に遺留分が保障されているわけではなく、遺留分権利者は、一定範囲の相続人に限定されています。

    具体的には、兄弟姉妹を除く以下の法定相続人が遺留分権利者となります

    • 配偶者
    • 子どもや孫などの直系卑属
    • 親、祖父母などの直系尊属


    遺留分制度は、被相続人と関係性の近い人の生活の保障を目的とした制度ですので、被相続人と生活関係が希薄で、お互いに自立して生活していることの多い、兄弟姉妹には遺留分が認められていません。

  2. (2)遺留分の割合

    すでに説明した通り、遺留分の割合には、総体的遺留分と個別的留分という2つの考え方があります。

    総体的遺留分は、相続財産全体のうち遺留分が何割であるかという問題であるのに対し、個別的遺留分は、総体的遺留分に対して各遺留分権利者がどの程度の遺留分を得られるのかという問題になります。

    総体的遺留分は、以下のように定められています。

    • 直系尊属のみが相続人の場合:相続財産の3分の1
    • それ以外の場合:相続財産の2分の1


    また、個別的遺留分は、総体的遺留分に各遺留分権利者の法定相続分を乗じて計算しますが、相続人の組み合わせによって、法定相続分が変わるため、具体的な個別的遺留分は、以下のようになります。

    相続人 総体的遺留分 各相続人の個別的遺留分
    配偶者のみ 1/2 配偶者:1/2
    配偶者と子ども 配偶者:1/4、子ども:1/4(子どもの人数で均等に分割)
    配偶者と親 配偶者:2/6、親:1/6(親の人数で均等に分割)
    子どものみ 子ども:1/2(子どもの人数で均等に分割)
    親のみ 1/3 親:1/3(親の人数で均等に分割)

3、遺留分を請求するための「遺留分侵害額請求」の手続き方法

遺留分が侵害されていることがわかったときは、遺留分侵害額請求により、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことができます。以下では、遺留分侵害額請求の手続きの方法と流れについて説明します。

  1. (1)遺留分侵害額請求書を送付する

    遺留分侵害額請求は、遺留分権利者から遺留分侵害者に対する意思表示により行います。意思表示の方法については、法律上、特に決まりはありませんので、口頭での意思表示でも可能です。

    しかし、口頭での意思表示だけだといつどのような権利行使があったのかが不明確ですので、後日トラブルが生じる可能性もあります。そのため、内容証明郵便を利用して遺留分侵害額請求書を送付するのが一般的な方法です。

  2. (2)遺留分権利者と遺留分侵害者との話し合い

    内容証明郵便が届いたら、遺留分権利者と遺留分侵害者との間で話し合いを行い、遺留分に関する問題の解決を目指していきます。
    遺留分侵害額請求は、法律上保障された権利ですので、遺留分の侵害が事実であれば、相手はそれを拒むことはできません。

    ただし、侵害された遺留分の金額などでお互いの言い分が食い違い、話し合いがまとまらないケースも少なくありません弁護士を交えながら、遺留分の計算根拠となった客観的資料を提示しながら話し合いを進めていくとよいでしょう

  3. (3)遺留分侵害額調停を申し立てる

    当事者同士の話し合いでは遺留分に関する問題が解決しないときは、家庭裁判所に遺留分侵害額の請求調停の申立てを行います。

    遺留分に関する問題は、調停前置主義が採用されていますので、話し合いがうまくいかないからといってすぐに訴訟を提起することはできず、原則として、訴訟提起前に調停手続きを行う必要があります。

    調停手続きでは、家庭裁判所の調停委員が関与して話し合いが進められますので、理不尽な理由で遺留分の支払いに応じない相手に対しては、調停委員から説得をしてもらうことができます。

    ただし、調停は、あくまでも話し合いの手続きになりますので、相手が遺留分の支払いに応じてくれないときは、調停不成立となります。

  4. (4)遺留分侵害額訴訟を提訴する

    調停不成立となった場合には、簡易裁判所または地方裁判所に対して、遺留分侵害額訴訟の提起を行います。

    訴訟では、遺留分権利者において、遺留分侵害の有無および遺留分侵害額を証拠によって立証していかなければなりません。裁判に関する知識や経験に乏しい一般の方では、適切に対応するのが困難ですので、弁護士のサポートを受けながら進めていくとよいでしょう。

    なお、遺留分の支払いを命じる判決が確定したにもかかわらず、支払いに応じないときは、遺留分侵害者に対して、強制執行をすることで強制的に遺留分を回収することができます。

4、遺留分に関する知っておくべきポイント

遺留分が侵害されていることに気付いた場合には、遺留分侵害額請求をしていくことになりますが、その際には以下のポイントを押さえておくようにしましょう。

  1. (1)遺言があっても遺留分を請求できる

    遺言がある場合には、遺言に記載された内容にしたがって遺産を分けることになります。遺留分を侵害する内容の遺言であっても法的には有効ですので、遺留分が侵害されているからといって遺言の効力が失われるわけではありません。

    しかし、遺言により遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害者に対して、遺留分侵害額請求権を行使することができます。不公平な内容の遺言書が見つかったときは、ご自身の遺留分が侵害されている可能性がありますので、内容をしっかりと確認することが大切です

  2. (2)遺留分は原則現金で支払わなければならない

    遺留分侵害額請求は、以前は、「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが、令和元年7月1日施行の改正民法により、遺留分減殺請求という名称が遺留分侵害額請求に変更となりました。民法改正により、遺留分に関しては、名称変更以外にも請求できる内容も変更されています。

    旧法の遺留分減殺請求では、権利行使により相続財産が共有状態となり、原則として財産自体の取り戻しを請求するという内容でした。これに対して、遺留分侵害額請求では、財産の取り戻しではなく、侵害された遺留分に相当する金銭の請求という内容に変更されています。

    民法改正により相続財産の共有化を防ぐことで、遺産の有効活用が可能になるというメリットがありますが、遺留分侵害者において遺留分の支払いのための金銭の準備が難しい場合には、簡単に支払いに応じてもらえないなどのトラブルも予想されます。

  3. (3)遺留分侵害額請求には時効がある

    遺留分侵害額請求には、時効がありますので、一定期間内に権利行使をしないと権利が消滅してしまいます。遺留分侵害額請求の時効は、相続開始および遺留分の侵害をしったときから1年とされていますので、不公平な内容の遺言を発見したときは、早めに権利を行使するようにしましょう

    なお、遺留分侵害額請求には時効以外にも除斥期間という制度がありますので、相続開始から10年を経過したときにも権利行使ができなくなります。

5、まとめ

兄弟姉妹を除く相続人には、法律上、遺留分が保障されていますので、遺言書の内容が不公平なものであった場合には、侵害された遺留分に相当する金銭を取り戻すことが可能です。

ただし、遺留分の計算は、非常に複雑なものとなっていますので、遺留分の金額を正確に計算するためにも、相続問題の実績がある弁護士に相談することをおすすめします。

不公平な内容の遺言書など、相続についてお悩みの場合は、まずはベリーベスト法律事務所 所沢オフィスまでご相談ください。相続問題の解決実績がある弁護士がお話を伺います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています