受託収賄とは? 意味や刑事罰の内容、逮捕後の流れを弁護士が解説
- 財産事件
- 受託
- 収賄

令和4年、埼玉県で、一般競争入札で特定の業者に金額を教えて落札させ、その見返りとして高額な飲食接待等を受けた人物が、収賄罪の容疑で逮捕されるという事件がありました。逮捕された公務員は、起訴され懲戒免職になっています。
収賄罪とはどのようなもので、その中でも受託収賄罪はどのような犯罪なのでしょうか。
この記事では、受託収賄罪の成立条件や逮捕された場合のリスク、逮捕された後の手続きの流れについて、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。


1、受託収賄とは
そもそも、受託収賄(じゅたくしゅうわい)とは、どのような行為なのでしょうか。
収賄罪は、行為態様によって以下の7種類に分けることができます。
- 単純収賄罪
- 受託収賄罪
- 事前収賄罪
- 第三者供賄罪
- 加重収賄罪
- 事後収賄罪
- あっせん収賄罪
以下では、この中の受託収賄罪について詳しく解説していきます。
-
(1)受託収賄罪が成立する条件
受託収賄罪とは、公務員が請託(せいたく)を受けて賄賂を収受・要求・約束した場合に成立する犯罪です。
受託収賄罪は、収賄の際に「請託を受けた場合」を収賄罪より重く処罰するものです。
請託とは、公務員に対し、職務に関して一定の行為を依頼することを指し、不正な職務行為の依頼か、正当な職務行為の依頼かは関係ありません。
たとえば、特別の営業許可が必要なケースで、その権限を有する公務員に対して謝礼と引き換えに許可を出すように依頼するような場合には、受託収賄罪が成立します。
このように、単なる賄賂の収受・要求・約束がなされた場合よりも「請託」があった場合の方が重く処罰されることになっています。また、請託を「受けた」というためには、公務員が依頼を受け、これを承諾したことが必要です。 -
(2)受託収賄罪の刑事罰
受託収賄罪に問われた場合には、「7年以下の懲役」に処せられることになります(刑法第197条1項後段)。単純収賄罪の法定刑は「5年以下の懲役」であるため、受託収賄罪は単純収賄罪よりも刑が重くなっています。
-
(3)収賄罪と贈賄罪の違いとは?
収賄罪と同じく公務員の汚職の罪として、「贈賄罪」が規定されています。
贈賄罪とは、収賄罪の対象となる「賄賂を供与し、又はその申込み若しくは約束をした」場合に成立する犯罪です(刑法第198条)。
収賄罪は、賄賂を受け取る側に成立する犯罪です。これに対して、贈賄罪は賄賂を与える側に成立する犯罪です。
贈賄罪に問われた場合には、「3年以下の懲役」または「250万円以下の罰金」に処せられることになります。単純収賄罪の法定刑が、「5年以下の懲役」とされていることから、贈賄罪の方が収賄罪よりも軽い犯罪といえます。このような差がある理由は、賄賂を差し出す側は自分の便宜を図ってもらうことを希望している点で、非難の度合いが小さいと考えられるからです。
2、受託収賄罪の事例や逮捕された場合のリスク
それでは、受託収賄罪で逮捕された場合にはどのようなリスクがあるのでしょうか。
ここでは、実際に受託収賄罪の逮捕事例と、逮捕された際の悪影響について解説していきます。
-
(1)受託収賄罪の事例
埼玉県での受託収賄罪の逮捕事例については、以下のようなものがあります。
埼玉県上尾市の前市長は、平成29年5月から同年6月にかけて、同市が発注予定の環境センター運転管理業務の受注に関し、有利な取り計らいをするよう請託を受け、その謝礼として、現金合計60万円を収受しました。前市長は、受託収賄罪の疑いで逮捕されています。 -
(2)受託収賄罪で逮捕された場合のリスクとは?
受託収賄罪で逮捕された場合には、以下のようなリスクがあります。
- 長期間身体拘束を受ける可能性がある
- 実名報道される可能性がある
- 懲戒解雇される可能性がある
受託収賄罪の容疑で逮捕・勾留された場合には、20日程度の身体拘束が続くおそれがあります。逮捕・勾留された場合には、弁護人以外とは自由に外部と連絡をとることが難しくなります。
また、受託収賄罪の容疑で逮捕された場合には、新聞やニュースなどで大々的に報道されてしまうおそれもあります。特に、公務員の汚職事件に関しては、公共の利益に関わり、また社会的な関心事であるため、容疑者の実名が報道されるおそれもあるでしょう。
また、受託収賄罪の疑いで逮捕された場合には、職場を懲戒解雇されてしまうおそれもあります。公務員の服務規程には懲戒事由として、「犯罪を行い刑に処せられた場合」や「著しい非行により職場の秩序を乱した場合」などが規定されている可能性があります。
3、逮捕の流れ
受託収賄罪の疑いで逮捕された場合、その後の手続きの流れは以下のようになります。
-
(1)警察による逮捕
警察官により逮捕された場合には、犯罪事実の要旨と弁護人を選任できることが告げられます。そして、被害者には弁解の機会が与えられ、被疑者が供述した内容は供述録取書に記載されることになります(刑事訴訟法第203条1項)。
警察官は、被疑者の弁解聴取の結果などを考慮して、留置の必要がないと判断した場合には、直ちに被疑者を釈放する必要があります。他方で、留置の必要があると判断した場合には、被疑者が身体拘束されたときから、「48時間」以内に、書類・証拠物とともに被疑者の身柄を検察官に送致されることになります。 -
(2)検察官送致
検察官は、被疑者を受け取ったときは、弁解の機会を与えたうえ、留置の必要がないと判断した場合には、すぐに釈放することになります。
他方、留置の必要があると判断した場合には、被疑者を受け取ったときから「24時間」以内、かつ被疑者が身体拘束されたときから「72時間」以内に、裁判所に勾留請求するか、または公訴を提起(起訴)されることになります。
また、上記の制限時間内にそのいずれもしない場合には、直ちに被疑者を釈放する必要があります(刑事訴訟法第205条参照)。 -
(3)勾留
検察官からの勾留請求を受けた裁判官は、被疑者と面接して事件に関する陳述を聴いたうえで、勾留に関する裁判を行います。
裁判官が勾留を決定した場合には、基本的に10日間の身体拘束が継続します。また、「やむを得ない事由」がある場合には、検察官の請求により、裁判官が勾留の期間を延長することができます。延長は通じて10日を超えることができません(刑事訴訟法第208条2項)。
したがって、容疑者が逮捕に引き続き勾留された場合には、起訴・不起訴の判断まで、最長23日間の身体拘束を受けることになります。 -
(4)起訴・不起訴の決定
検察官は被疑者の勾留期間中に捜査を行い、被疑者を起訴するのか、あるいは不起訴処分にするのかの判断を行います。不起訴処分には、「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予処分」の3つの種類があります。
日本の刑事裁判の有罪率は約99%であるため、検察官に起訴された時点で事実上、有罪判決を受ける可能性が高くなります。 -
(5)刑事裁判
公訴提起後も被告人は身体拘束を受けることになります(被告人勾留)。被告人勾留の期間は、公訴提起から2か月で、1か月ごとに更新することができます。
そのため、公訴提起から2か月以内に刑事裁判が開かれることが多くなります。
刑事裁判における審理・判決の流れは以下のようになります。- ① 冒頭手続き:罪状の確認を行います。
- ② 証拠調べ:検察官が証拠提出・証人が発言します。
- ③ 弁論手続き:弁護士と検察官がそれぞれ主張します。
- ④ 判決宣告:裁判官が判決を言い渡します。
初犯の場合には、執行猶予付の有罪判決が下される可能性があります。ただし、有罪判決には変わりないため、前科が残ることになります。
4、逮捕されるか不安な場合は弁護士に相談を
受託収賄罪の疑いで逮捕されそうな場合には、すぐに弁護士に相談するようにしてください。
-
(1)受託収賄罪は比較的重い犯罪
受託収賄罪は公務員の汚職の中でも比較的重い犯罪であるため、弁護士に事件を依頼し早期に弁護活動を行うことが重要です。弁護士が捜査機関に逃亡や罪証隠滅のおそれがないことを説明することで、逮捕や勾留を回避できる可能性があります。
-
(2)取り調べで不利にならないためには
弁護士に依頼することで取り調べの受け答えなどに関するアドバイスも受けられます。逮捕された場合には、すぐに警察による取り調べが行われ、容疑者に不利な内容の後述調書が作成されてしまうおそれがあります。
逮捕された個人が一人で捜査機関に対抗することは非常にハードルが高くなるため、弁護士のサポートを受けるべきでしょう。 -
(3)弁護士に相談し早期に弁護活動を
弁護士に依頼をした場合には、手続き全体を通じて今後どうなるのかの判断をしてもらえるので、不安を軽減することができます。また、受託収賄罪の容疑で起訴された場合であっても、弁護活動により執行猶予判決などの処罰を求めていきます。
受託収賄罪の疑いをかけられている、もしくは逮捕のおそれがある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
お問い合わせください。
5、まとめ
受託収賄罪とは、公務員が賄賂を受け取る、または要求や約束をした場合に請託を受けた場合に成立する犯罪のことです。受託収賄罪で逮捕・起訴された場合には、7年以上の懲役刑が科される可能性があります。
受託収賄罪の容疑で逮捕されるか不安という方は、お早めに弁護士に相談されることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスには、受託収賄罪を含めた刑事事件の解決実績がある弁護士が在籍しておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
- |<
- 前
- 次
- >|