離婚で年金分割をするのは損? 熟年離婚で起こりがちな落とし穴
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熟年夫婦が離婚する際に気になるのが、老後の生活費でしょう。仕事を定年退職した後には収入がなくなるため、老後の生活費は、基本的にはそれまでの貯蓄と年金によって賄うことになります。
離婚の際には、年金分割という制度がありますので、これを利用することで老後の年金を増やすことができる可能性があります。ただし、「離婚で年金分割をするのは損」といわれることもありますので、しっかりと制度を理解しておくことが大切です。
本コラムでは、離婚時の年金分割制度の概要や熟年離婚で起こりがちな落とし穴について、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
1、年金分割とは
まず、年金分割に関する基本的な事項を解説します。
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(1)年金分割の概要
年金分割とは、夫婦が離婚した際に、婚姻期間中の保険料納付額に対応した厚生年金を分割し、それぞれの年金にすることができる制度です。
年金分割をすることにより、厚生年金支給額の計算の基礎となる報酬額の記録が分割されるため、将来受け取ることができる年金を増やすことが可能です。
将来受け取ることができる年金が具体的にどれくらい増えるかについては、掛金額によっても変動します。
厚生労働省が公表している「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」という資料によると年金分割を受ける側の年金分割前後の受給額の月額平均は、分割前の金額が5万4281円、分割後の金額が8万5394円となっているため、平均的には年金分割により月額3万1112円増加したことになります。 -
(2)年金分割の種類
年金分割には、合意分割と3号分割の二種類があります。
合意分割は、夫婦二人からの請求で年金を分割する方法です。
合意分割での分割割合は、夫婦の合意または裁判所が決めた割合となります。
3号分割とは、夫がサラリーマン、妻が専業主婦など国民年金第3号被保険者であったほうからの請求により年金を分割する方法です。
3号分割での分割割合は、2分の1ずつとなります。 -
(3)離婚後、元配偶者が他界したときの扱い
年金分割をした後に離婚した元配偶者が亡くなったとしても、すでに分割された年金に影響が生じることはありません。
離婚後の元配偶者が再婚した場合も同様です。
しかし、離婚後、年期分割をする前に元配偶者が亡くなってしまった場合には、合意をすることもできないため、年金分割はできなくなってしまいます。
3号分割の場合には、元配偶者の合意は必要ないため、元配偶者の死亡後にも年金分割の手続きをすることができます。
ただし、元配偶者の死亡から1か月以内に年金分割の手続きを行わなければならない点に注意が必要です。
2、年金分割は損をするといわれる理由
以下では、「年金分割は損をする」といわれる理由を解説します。
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(1)夫が受け取る年金の半分をもらうことができるわけではない
「年金分割をすれば、夫が受け取る年金の半分をもらうことができる」と考えている女性もおられますが、その理解は正確ではありません。
まず、年金分割の対象となる年金は、厚生年金の部分だけで国民年金は含まれません。
また、分割されるのは婚姻期間中の記録に対応する部分だけであるため、独身時代に収めた保険料に対応する部分は分割されないのです。
年金分割をしても期待していたほどには得られる金額が増えないことから、「損をした」と感じる方もいるでしょう。 -
(2)夫婦でいたほうが受け取れる金額が高くなる可能性が高い
離婚せずに夫婦関係を維持していれば、配偶者が死亡した場合には、遺族年金を受け取ることができます。
離婚をしてしまうと年金分割によるわずかな年金しか受け取ることができないことに比べれば、夫婦であり続けることは、遺族年金を受け取ることができるという点で有利だといえるでしょう。
また、離婚して夫婦が別々に暮らすことになれば、それぞれ住居費、食費、水道光熱費などがかかりますので、一緒に生活していたときに比べると支出が増えることになります。
そのため、受け取る年金額が同じであっても支出も増えることで、全体的には金銭面では損してしまう可能性もあります。
3、熟年離婚をする前に検討すべき4つのこと
以下では、熟年離婚するかどうか迷っている方が事前に検討すべきポイントを解説します。
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(1)適正な財産分与を求める
婚姻期間の長い熟年夫婦では、夫婦が婚姻中に築いた財産も高額になる傾向があります。
このような夫婦の共有財産については、離婚時の財産分与によって清算することができます。
適正な財産分与を求めることができれば、離婚後の経済的不安も少しは解消するでしょう。
離婚時の財産分与は、専業主婦であっても基本的には2分の1の割合で分与を求めることができます。
財産分与では、対象財産のリストアップとその評価が重要となるため、相手の隠し財産も含めてしっかりと調査することが大切です。 -
(2)離婚後の生活設計をする
財産分与や年金分割のシミュレーションをすることによって、離婚時にどれくらいのお金を確保することができ、将来どのくらいの年金をもらうことができるのかの見当をつけることができます。
もし財産分与や年金分割だけでは生活資金が不足するという場合には、仕事を探すなどして、収入のめどをたてる必要もあります。
また、高齢者だと賃貸住宅を借りるのに苦労することがありますので、「離婚後にどこで生活するのか」ということについても事前に考えておく必要があります。 -
(3)一人で家事を行うことができるか
婚姻生活中に日常の家事をすべて妻に任せていた男性は、離婚後に一人で家事を行わなければなりません。
今まで家事をしたことがない人が家事をしようとしても何から手をつけてよいかわからず大変な苦労をすることがあります。
離婚を考えている男性は、離婚前から、掃除や洗濯や料理などの日常の家事に少しずつ慣れておきましょう。 -
(4)健康面への配慮
熟年離婚をする際には健康面への配慮も必要になります。
年を重ねるごとに、病気や怪我のリスクは高くなります。
もし近い将来に持病の悪化や突然の事故によって、入院や介護が必要になったとしても、離婚をしてしまったら、頼るべきパートナーは存在しません。
何かあった場合にはすべて自分ひとりで解決しなければならないため、健康的な生活を心がけることが大切です。
4、離婚を進める前に弁護士に相談すべきケース
以下では、離婚を進める前に弁護士に相談したほうがいい場合を解説します。
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(1)夫婦の共有財産が多いケース
とくに熟年離婚の場合には、夫婦のどちらも貯金などの財産を蓄積していることから、共有財産が多くなる傾向になります。
共有財産が多いということは、財産分与によってもらうことができる財産が多いということを意味します。
財産分与の金額は離婚後の生活に大きな影響を与えるため、適正な財産分与を行うことが重要です。
弁護士であれば、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託によって、相手名義の隠し財産を明らかにすることができます。
また、「住宅ローンが残っている不動産がある」といった特殊な事情が存在する場合にも、法律の専門知識に基づいて、将来にトラブルにならないような解決方法を提案することが可能です。 -
(2)配偶者に離婚の原因となる有責性があるケース
配偶者によるDVや配偶者による不貞行為が離婚の原因であった場合には、離婚時に配偶者に対して慰謝料を請求することができます。
ただし、慰謝料請求をするためには、配偶者がDVや不貞行為をしたことを証明しなければならず、そのためには証拠が必要不可欠となります。
証拠がない状態で離婚を切り出してしまうと、有責性を否定されてしまったり、重要な証拠を処分されてしまったりするおそれもあります。
したがって、配偶者に慰謝料を請求することを検討される場合は、証拠収集や慰謝料請求の方法などのアドバイスを受けるためにも、まずは弁護士に相談してください。 -
(3)一人で離婚を進めることに不安があるケース
離婚をする場合には、まずは夫婦の話し合いによって進めていくことになります。
しかし、夫婦の関係性によっては、お互いに顔を合わせて話し合いをすること自体にストレスを感じることもあるでしょう。
また、離婚にあたっては、親権、養育費、慰謝料、財産分与、面会交流、年金分割などさまざまな条件について決めなければならないため、専門知識を持たない個人には対応が困難な場合もあります。
弁護士に依頼すれば、離婚の交渉を代行させることができます。
弁護士が離婚交渉を行うことで、本人の精神的に負担を軽減しながら、適切な条件で離婚できる可能性を高められるでしょう。
5、まとめ
年金分割制度により、将来もらうことができる年金を増やすことができますが、相手の年金を半分もらうことができるとは限りません。
また、離婚することにより遺族年金を受け取れなくなったり、さまざまな支出が発生したりすることから、金銭的に「損をした」と感じてしまう可能性もあります。
熟年離婚を検討されている方は、そもそも離婚をするかどうか、財産分与はどのように行うべきかなどについて、さまざまな要素を考慮しながら慎重に判断しなければいけません。
離婚に関するお悩みは、まずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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