野良猫への餌やりを禁止する条例がある？ 野良猫問題の相談先とは

国が定める法律では、野良猫の餌やりに関するルールが具体的に定められていない状況です。

これに対して、地方公共団体が制定する「条例」では、野良猫の餌やりに関する具体的なルールが定められているケースがあります。

まずは「条例」とは何かについて、法律との違いを中心に確認しておきましょう。

1. （1）条例＝都道府県・市町村・特別区が制定する法

   「条例」とは、都道府県・市町村・特別区に制定権が認められている法（＝市民などに適用されるルール）のことです。
   
   日本国憲法の地方自治に関する規定では、地方公共団体に対して、法律の範囲内で条例制定権を認めています（日本国憲法第94条）。
   
   これを受けて、地方自治法第14条第1項では、普通地方公共団体である都道府県と市町村の条例制定権を規定しています。
   
   また、東京23区は「特別区」として、本来であれば東京都が有する条例制定権に基づき、条例の制定に関する事務を処理できるものと解されています（地方自治法第281条第2項）。
   
   都道府県・市町村・特別区によって条例が制定された場合、条例は当該地方公共団体の区域内においてのみ適用されます。

2. （2）条例で定められる内容には制限がある

   国が定める法律では、日本国憲法に違反する内容を定めることはできません。
   
   これに対して、地方公共団体が定める条例では、法律に反する内容を定めることができないため、法律よりもさらに自由度は低くなっています。
   
   また、条例で罰則を定める場合には、以下の制限が課される点も特徴です（地方自治法第14条第3項）。

   ＜条例で科す（課す）ことのできる罰則＞

   • 2年以下の懲役もしくは禁錮
   • 100万円以下の罰金
   • 拘留
   • 科料
   • 没収
   • 5万円以下の過料

条例は各地方公共団体が独自に制定しているため、地域によって内容は千差万別です。

条例によって野良猫の餌やりを具体的に規制している地域は、現状少数派ではあるものの、一定数存在します。特に、保護すべき希少な愛護動物が生息している地域では、動物愛護の観点から野良猫による被害を防止するために、餌やりを規制する条例が制定されるケースが多いようです。

野良猫の餌やりについて、各地域の条例でどのような規制が設けられているのかを見てみましょう。

1. （1）和歌山県の動物愛護管理条例

   都道府県レベルの条例では、和歌山県の動物愛護管理条例が、野良猫に対する餌やりを規制するものとして知られています。
   
   野良猫への餌やりが一切禁止されているわけではないものの、継続的または反復して餌やりを行う場合には、以下の事項を順守しなければなりません（同条例第14条。猫を屋内で飼養する場合には適用されません）。

   • 生殖できない猫にのみ餌やりを行うこと（不妊去勢手術を受けた猫については、耳介の一部切除などの措置を受けた場合に限ります）。
   • 時間を定めて餌やりを行うこと。
   • 餌やりの後は、飼料および水を速やかに回収すること。
   • 餌やりに起因して、餌やりを行った場所を汚さないこと。
   • 餌やりを行う際に、猫の排泄のための施設や設備を設置して、排泄物を速やかに除去し、適正に処理すること。
   • あらかじめ、餌やりを行おうとする場所の周辺住民に対し、餌やりの実施内容について説明するよう努めること。
   
   
   

   参考：「和歌山県動物の愛護及び管理に関する条例」（和歌山県）

2. （2）沖縄県竹富町の猫飼養条例

   沖縄県竹富町は、八重山諸島の中にあり、9つの有人島を有する島嶼町です。
   
   特に西表島の「イリオモテヤマネコ」が有名ですが、猫の放し飼いに伴う交通事故・天敵からの攻撃・感染症などのリスクにより、イリオモテヤマネコの種の保存が危機にさらされていました。
   
   そこで、沖縄県竹富町は「猫飼養条例」を制定し、イリオモテヤマネコ保全を主眼として、猫の飼養に関する独自のルールを設けました。同条例第18条では、屋外にいる猫に対して、みだりに餌や水などを与えることが禁止されています。
   
   参考：「竹富町猫飼養条例」（一般財団法人地方自治研究機構）

3. （3）沖縄県南大東村の適正飼養条例

   沖縄県南大東村では、飼い猫の野生化および放し飼いにより、「ダイトウオオコオモリ」などの野生生物が危害にさらされていました。
   
   そこで、沖縄県南大東村は「飼い猫の適正な飼養及び管理に関する条例」を制定しました。
   同条例第11条では、飼い猫以外の猫に対して、みだりに餌や水などを与えることが禁止されています。
   
   参考：「南大東村飼い猫の適正な飼養及び管理に関する条例」（一般財団法人地方自治研究機構）

4. （4）長崎県対馬市の適正飼養条例

   長崎県対馬市では、野良猫が市民に迷惑を及ぼすことに加えて、絶滅のおそれがある「ツシマヤマネコ」に危害を加えることが懸念されていました。
   
   そこで、長崎県対馬市は「ネコ適正飼養条例」を制定しました。同条例第19条では、自ら飼養または保管していない猫に対して、みだりに餌や水を与えることが禁止されています。
   
   参考：「対馬市ネコ適正飼養条例」（対馬市）

5. （5）北海道羽幌町の天売島ネコ飼養条例

   北海道の北部西海岸に位置する羽幌町には、離島である「天売島（てうりとう）」が属しています。天売島では、海鳥の繁殖活動が盛んに行われていますが、野良猫が海鳥の繁殖に悪影響を及ぼすことが懸念されていました。
   
   そこで、北海道羽幌町は「天売島ネコ飼養条例」を制定しました。同条例は、天売島内に限定して適用される猫の飼養ルールを定めるものです。
   
   同条例第18条では、天売島の住民または訪問者が、自ら飼養していない猫に対してみだりに餌や水を与えることを禁止しています。
   
   参考：「天売島ネコ飼養条例」（北海道町村会）

野良猫に対する餌やりに関する規制に違反した場合、何らかの罰則が与えられるかどうかは、各地域の条例によって異なります。

これまでに挙げた5つの条例では、野良猫に対する餌やりに関する、罰則規定の内容は以下のとおりです。

和歌山県の動物愛護管理条例	措置命令に違反した場合、5万円以下の過料（同条例第26条第4項）
沖縄県竹富町の猫飼養条例	勧告、措置命令のみ（罰則はなし）
沖縄県南大東村の適正飼養条例	措置命令に違反した場合、5万円以下の過料（同条例第21条第1項）
長崎県対馬市の適正飼養条例	勧告のみ（罰則はなし）
北海道羽幌町の天売島ネコ飼養条例	措置命令に違反した場合、2万円以下の過料（同条例第24条第2号）

措置命令違反について2～5万円の過料が課される地域と、勧告や措置命令までで罰則はない地域に分かれています。過料の制裁が設定されている地域でも、実際に過料が課されるケースはほとんどないと考えられます。

野良猫などの野生動物に関する対応は、都道府県・市町村・特別区が取り扱っています。条例で餌やりが禁止されていないとしても、地域の治安や生活環境を守るため、地方公共団体が主導して保護などを行ってくれるケースが多いです。

地域住民が勝手に野良猫に餌をあげていて、悪臭や繁殖などに困っている場合には、一度各地方公共団体の窓口に相談してみましょう。

野良猫に対する餌やりをみだりに行うと、悪臭や繁殖などの公害に発展するケースがあります。各地域の条例で野良猫への餌やりが規制されている場合もありますが、全国的には十分な規制が行われていない状況です。

もし近隣住民などによる野良猫への餌やりに困っている場合には、都道府県・市町村・特別区の窓口に相談すると、対応してくれる場合があります。生活上の不快感が続いている場合には、一度各地方公共団体の窓口に相談してみましょう。

また、近隣住民との間で具体的なトラブルに発展してしまった場合には、弁護士のサポートを受けることも一つの選択肢です。近隣住民とのトラブルを解決したい方は、ぜひ一度ベリーベスト法律事務所にご相談ください。