債権者保護手続きが必要になる場面と手続き方法

2024年03月19日
  • 一般企業法務
  • 債権者保護手続き
債権者保護手続きが必要になる場面と手続き方法

企業の経営者で合併や会社分割を考えている方のなかには、「債権者保護手続き」について関心のある方も多いでしょう。

合併や会社分割などは複雑な過程を経て実現するものですが、債権者保護手続きについても、十分な配慮を行う必要があります。

本コラムでは、どのような場合に債権者保護手続きが必要となるか、債権者保護手続きのやり方などについて、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。

1、債権者保護手続きが必要な場合

  1. (1)債権者保護手続きとは

    債権者保護手続きとは、組織再編などの会社の基礎的な変更が行われるときに、その会社の債権者が異議を申し立てる手続きです。

    会社が大きく変わると、その債権者としては、その会社に持っている債権が確保されるのかどうか心配になるでしょう。
    もしペーパーカンパニーなどに債権だけが移されてしまったら債権を回収することは不可能になってしまうおそれもあります。
    そのため、組織再編などに問題はないかどうかを債権者が吟味し、問題があるようであれば異議を申し立てるようにすることで債権者を保護するための手続きが設けられているのです。

  2. (2)債権者保護手続きが必要となる場合

    ■合併の場合
    合併とは、二つ以上の会社が、一つの会社になることをいいます。
    また、合併には「吸収合併」と「新設合併」の二種類があります。

    • 吸収合併
      吸収合併とは、当事者のうち1社(存続会社)が合併後も残り、合併によって消滅する他の会社(消滅会社)から、権利や義務のすべてを引き継ぐことです。
    • 新設合併
      新設合併とは、すべての当事会社が合併によって消滅し、その権利や義務のすべてが、合併によって新たに設立する会社(設立会社)に引き継がれるものをいいます。
      もっとも、実務上は、設立会社が新たに事業の許認可を得るなどしなくてはならないことから、新設合併が行われることは少なく、基本的には吸収合併が行われることのほうが多くなっています。


    合併では消滅会社の権利や義務のすべてを存続会社や設立会社が引き継ぐことから、合併の一方当事者の財務状態が悪いとほかの当事会社の債権者の債権回収の可能性が低下して、利益が害されてしまう可能性があります。
    そのため、会社法では、合併をする当事会社の債権者を債権者保護手続きの対象として、合併に対して異議を述べることが可能になっているのです

    ■会社分割の場合
    会社分割とは、ある会社(分割会社)がその事業に関して有している権利や義務の全部または一部を、他の会社に引き継がせることです。
    会社分割は、グループ会社の再編や事業買収などでよく活用されている手続きです。

    また、合併と同じく、会社分割にも吸収分割と新設分割の二種類があります。
    吸収分割とは、既存の当事会社(承継会社)が、分割会社の権利義務を引き継ぐものです。
    新設分割とは、分割によって新たに設立する会社(設立会社)が、分割会社の権利義務を引き継ぐものをいいます。

    会社分割の債権者保護手続きはやや複雑であるため、注意が必要です。
    会社分割では、吸収分割契約や新設分割契約の定めに従って分割会社の権利義務の全部または一部が承継会社または設立会社に引き継がれます。
    そのため、経営不振である会社が不採算事業についてだけ分割して設立会社に移転する場合には、債権者の不利益になる危険が大きくなります。
    一方で、円滑な事業買収・再編のためには会社分割は有効です。
    これらのバランスをとるために、一定の債権者については、債権者保護手続きが設けられているのです。

    具体的には、以下のような立場の債権者は、会社分割で異議を述べることができます。

    1. ① 分割会社の債権者のうち、会社分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者
    2. ② 分割会社が、分割の対価である承継会社・設立会社の株式を株主に交付する場合における、分割会社の債権者
    3. ③ 承継会社の債権者


    ■株式交換・株式移転の場合
    株式交換とは、ある株式会社(株式交換完全子会社)が発行済の株式の全部を他の会社(株式交換完全親会社)に取得させることをいいます。
    また、株式移転とは、一つまたは二つ以上の株式会社が、その発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいいます。
    株式交換や株式移転においては、他の組織再編と比べると、債権者の利益を害するような場面が限定されています。
    債権者保護手続きが必要となるのは、以下のような債権者です。

    1. ① 株式交換の対価として、完全親会社の株式以外のものが交付される場合の、完全親会社の債権者。対価が多額になると、完全親会社の財務状況に影響を及ぼす可能性があるためです。
    2. ② 株式交換契約によって、完全子会社が発行している新株予約権付社債を完全親会社が引き継ぐ場合の、完全親会社の債権者。完全親会社の債権者にとっては、債務が増加するため必要となります。
    3. ③ ②の場合の、社債権者。債権者にとっては、完全子会社に有していた債権を完全子会社に対して免責して引き継がせることになるので、完全子会社に対して異議を述べることができます。株式移転において完全子会社が発行している新株予約権付社債を新たに設立する完全親会社が引き継ぐ場合も、同様に必要となります。


    ■資本金・準備金を減少させるとき
    組織再編の場合だけではなく、資本金や準備金を減少させる場合にも、債権者保護手続きが必要となります。
    資本金・準備金を減少させることは、それ自体によって会社の資産は変動しませんが、会社債権者の利害に影響を及ぼすために債権者保護手続きが必要とされており、債権者は異議を述べることができます。
    ただし、準備金を減少してその全額を資本金にする場合や、定時株主総会で準備金の額だけを欠損塡補(てんぽ)のためだけに減少させる場合には、債権者の利益を害することにはならないので、債権者保護手続きは不要となります。

2、債権者保護手続きのやり方

以下では、代表的な合併の場合における債権者保護手続きのやり方を紹介します。
その他の会社分割などの組織再編や資本金・準備金の減少の場合も、手続きの方法は基本的には同様です。

まず、債権者に異議を述べる機会を与える必要があるため、当事会社は合併に関する一定の事項とともに債権者は一定の期間内に異議を述べることができる旨を官報に公告して、知れている債権者には各別に催告しなければなりません。
また、この異議を述べることができる期間は、1か月を下回ることはできません。
ただし、公告を官報のほかに定款で定めた日刊新聞紙または電子公告によって行ったときには、債権者に対して行わなければならない各別の催告を省略することができます。

所定の期間内に債権者が異議を述べなかったときには、合併を承認したとみなされます。しかし、異議を述べた債権者がいた場合には、当該債権者に対して、弁済もしくは相当の担保を提供するか、また弁済目的で相当の信託をしなくてはなりません。
ただし、財務状態に問題のない会社との合併であることで、債権の回収可能性が悪化することがない場合など合併が債権者を害しないときには、これらを行う必要はありません。

3、債権者ともめた場合の対処法

  1. (1)債権者保護手続きで異議を述べられた場合

    債権者保護手続きで異議を述べられた場合には、前述のように、弁済もしくは相当の担保を提供するか、または弁済目的で相当の信託をしなくてはなりません。
    ただし、たとえば財務状態に問題のない会社との合併などの場合で債権の回収可能性に悪影響がなく、債権者を害しない場合には、これらを行う必要はありません。

  2. (2)債権者保護手続きに違反した場合にはどうなる?

    ここまでに解説してきたように、債権者保護手続きでは、債権者は一定の期間内に異議を述べることができる旨を官報に公告して、知れている債権者には各別に催告をするなどといった手続きが必要です。

    これらの公告や催告なく合併をしてしまったような場合には、合併の効力が生じた日から6か月以内に、その合併などを承認しなかった債権者は、組織再編無効の訴えを提起し、債権者保護手続きの不履行を無効の理由として主張することができます。

4、組織再編をするなら弁護士に相談

債権者保護手続きは、手続きも複雑であり、場合によっては組織再編などが無効とされてしまいかねないため、慎重に行う必要があります。
そもそも債権者保護手続きが必要かどうか、どの債権者に対して行う必要があるかを判断するためには、法的な知見も必要となります。
さらに、組織再編においては、ほかにもさまざまな契約が発生するため、法律的なトラブルが発生する可能性は高いといます。

組織再編を進める場合には、トラブルを予防しながら適切に手続きを進めるため、法律の専門家である弁護士に相談しましょう

5、まとめ

債権者保護手続きは、主に組織再編を行う場合に必要となるものであり、組織再編の類型をふまえて個別のケースで債権者保護手続きが必要かどうかなど、法的な見地からの判断が必要です。
しっかりと手続きをふまないと、組織再編の無効の訴えを提起されてしまうリスクもあります。
また、組織再編においては多様な契約が必要となるため、弁護士に相談しながら適切に進めることが大切です、

ベリーベスト法律事務所には、組織再編などを含めた企業法務については、豊富な対応実績があります。また、多様なプランのある顧問弁護士サービスを用意しており、日頃から企業のニーズに合った柔軟な対応を行うことができます。

組織再編をご検討されている企業の経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています