どこまでが合理的配慮? 基礎知識と企業の義務・注意点

2022年07月07日
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どこまでが合理的配慮? 基礎知識と企業の義務・注意点

合理的配慮という言葉をご存知でしょうか。合理的配慮とは、障がいのある方とそうでない方とが互いに尊重して生活を送れるように、障がいのある方にとって支障となる制度や物事を除くため、企業や国・自治体に求められる対応のことをいいます。

所沢市では、2017年3月末の統計によれば、障害者手帳の所持者は1万3340人で、その時点の所沢市の総人口の3.9%です(※注:合理的配慮が求められる対象になる方は障害者手帳の所持者の方には限定されません)。

企業の皆様にとっては、これだけの障がいのある方が身の回りにいらっしゃることを十分に認識した上で、障がいのある方とそうでない方とが互いに尊重して生活を送れるよう対応をする必要があります。

この記事では、合理的配慮とは何か、どこまで配慮すべきなのか、基礎知識や注意点について、ベリーベスト法律事務所 所沢の弁護士が解説いたします。

1、合理的配慮はなぜ必要なのか

  1. (1)合理的配慮とは何か?

    合理的配慮という言葉は「障害者差別解消法」(正式名称は、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」といいます)に登場しますが、法律上の明確な定義はされていません。

    障害者差別解消法は、障がいがある方であっても、障がいがない方と同じく個人として尊重され、障がいがあることを理由に不当な差別をされることがないよう「共生する社会」を実現するために定められました。「共生」とは、障がいがある方もない方も互いにその人らしさを認め合いながら、共に生きることをいいます。

    しかしながら、社会の特定の制度、習慣または物事が、障がいのある方が生活を営む上での支障となる場合があります。

    そこで、障がいがある方の支障となっているこれらの障壁を除去・改善し、障がいがない方と同様に生活ができるよう、自治体や企業に求められる措置を「合理的配慮」というのです。

    たとえば、視覚に障がいがあり、目が見えない方であれば点字などの措置が必要となります。また、耳が聞こえない方であれば、筆談器や手話通訳者などを通じてコミュニケーションをとれるよう配慮します。

    障害者差別解消法では、民間の企業などに対して、障がいのある方から申し入れがあったときには、このような合理的配慮を行うように努めることを定めているのです。

    なお、国や自治体は、合理的配慮を行うように「努める」(=努力義務)ではなく、「しなければならない」(=法的義務)とされています

  2. (2)障害者雇用促進法における合理的配慮

    また、障害者差別解消法とは別に、障害者雇用促進法(正式名称は「障害者の雇用の促進等に関する法律」といいます)にも、合理的配慮という言葉がでてきます。

    障害者差別解消法は、あらゆる分野について合理的配慮を求めることを定めていますが、障害者雇用促進法では障がい者の雇用に特化した分野を対象とした法律となっています。

2、合理的配慮には意思表示が必要

では、企業などは、常に障がいのある方へ合理的配慮を行うように努めなくてはならないのでしょうか。

この点、合理的配慮が求められるのは、障がいのある方から合理的配慮を求める意思表示があったときとされています。

したがって、少なくとも法律の要請としては、さまざまな場合を事前に想定して、障がいがある方の支障に配慮した企業運営を行うことまでは求められてはいません。

なお、このような意思表示を行う障がいのある方は、必ずしも障害者手帳を持っている人に限られません。身体障害のある方、精神的な障害のある方、知的障害のある方、その他心やからだの働きに障害がある方(発達障害・病気などを原因とする場合も含まれます)で、生活に制限や支障がある方はすべて対象になります

次の章では、企業などが、障がいがある方から合理的配慮の申し出を受けた場合に、どこまでの対応を行うべきか、ご説明いたします。

3、合理的配慮はどこまで提供する必要がある?

それでは、企業などは、障がいがある方の合理的配慮の求めに、どこまでの対応を行う必要があるのでしょうか。

  1. (1)「実施に伴う負担が過重でないとき」ときとは

    障害者差別解消法は、合理的配慮の実施に伴う負担が過重でないときには、合理的配慮を行うように努めることとされています。

    したがって、企業などにとって、負担が過重であるような場合には、必ずしも合理的配慮を提供しなくともよいことになります

    この負担が過重か否かは、以下の6つの要素によって判断されます。

    ① 事業活動への影響の程度
    合理的配慮の提供を行うことによって、事業所の生産活動やサービス提供への影響その他の事業活動にどの程度の影響がでるのか、判断する要素です。
    たとえば、工場などにおいて、合理的配慮を提供することで商品を生産することに支障が大きく出てしまうような場合には、事業活動への影響の程度が大きいといえ、過重な負担があると考えられやすいでしょう。逆に、商品生産などへの影響がほとんどないのであれば、過重な負担でない方向に考えられることになります。

    ② 実現困難度
    事業所の立地・施設の形態などによって、合理的配慮を提供するための人材や機器の確保、設備の整備などを整える困難度をいいます。
    たとえば、あるビルに事務所を借りている企業が、現在のビルの設備にないスロープや多目的トイレなどの設置を顧客に求められた場合はどうでしょうか。その企業は、ビルを借りているだけなので、新しい施設を設置したり、既存の設備を変更したりするにはビルのオーナーと交渉することになりますが、ビルのオーナーに拒絶されてしまう場合もあるでしょうし、金銭負担などの条件のもとで承諾されることもあるでしょう。
    具体的に、その企業の状況によって、過重な負担か否か、判断が分かれることになります。

    ③ 費用負担の程度
    合理的配慮を提供することによる費用・負担の程度をいいます。複数の障がいのある方から要望があった場合、それらの複数の障害者に係る措置に要する費用・負担も勘案して判断することになります。
    合理的配慮を提供する上で、事業者の大規模な改修をするような高額な費用がかかる場合もあれば、机や椅子の高さを調整することで対応できるような費用もかからない場合もあるでしょう。

    ④ 企業の規模
    当該企業の規模に応じた負担の程度をいいます。一般的には、企業の規模が大きい方が負担は過重でない方向に働くものといえますが、他の要素との兼ね合いによって判断されます。

    ⑤ 企業の財務状況
    当該企業の財務状況に応じた負担の程度をいいます。こちらも、一般的には、財務状況が良好であれば負担が過重でない方向に働くものといえますが、やはり他の要素との兼ね合いによって判断されます。

    ⑥ 公的支援の有無
    当該措置に係る公的支援を利用できる場合は、その利用を前提とした上で判断することになります。もちろん利用できるからといって、直ちに合理的配慮の提供をしなくてはならないということにはなりません。その他の要素を総合的に考慮して判断することになります。

  2. (2)「実施に伴う負担が過重」であった場合の対応

    企業にとって、仮に合理的配慮を提供することが過重であったとして、合理的配慮を提供できなくとも、やむを得ない場合があったとしましょう。

    この場合であったとしても、企業としては、障がいがある方に対しては、なぜ対応できなかったのかを説明し、十分な理解を得ることができるようにすることが障害者差別解消法の目的に照らして、望ましい対応といえます。

    過重な負担であるから合理的配慮を提供しなくても許される場合であるからといって、障がいのある方に対して、十分な説明を行わない場合には、企業倫理の側面ならず、レピュテーションリスク(ネガティブな世評による企業ブランド低下のリスク)にさらされる危険もあります。

4、企業が注意するべきポイント

合理的配慮に関して、注意すべきポイントがあります。

  1. (1)障害者差別解消法の改正

    ここまでは、合理的配慮を提供することは、国や自治体とは異なり、民間の企業にとっては合理的配慮を提供するように努めなくてはならない義務(=努力義務)であると説明しました。

    もっとも、2021年5月、障害者差別解消法が改正され、公布日である2021年6月4日から3年以内に施行されます。

    この改正によって、民間の企業であっても、合理的配慮を行わなくてはならない義務(=法的義務)となったので、注意が必要となります。なお、企業にとって負担が過重になる場合には、改正前と同様に合理的配慮を提供しなくても適法である点は変更ありません。

    さらに、雇用の場面における合理的配慮については、障害者雇用促進法によって、すでに法的義務とされています

  2. (2)不当な差別的取り扱いの禁止

    障害者差別解消法では、合理的配慮の提供を求めることに加えて、不当な差別的取り扱いを禁止しています。障害のある方に対して、正当な理由のない差別的な取り扱いは障害者差別解消法に違反することになります。

    たとえば、障がいのある方が店舗に来店した際に介助者や保護者でないとお店に入れないとすることや、不動産会社が障がいのある方向けの物件はないなどと門前払いをすることがあげられます。

    このように、合理的配慮の提供のほかにも、不当な差別的取り扱いをしていないのか、業務フローを確認する必要があります。

5、まとめ

障害者差別解消法は改正によって合理的配慮の提供を努力義務から法的義務としました。

このことは、障がいがある方に対する国民意識の変化の現れであり、障がいのある方への配慮とその提供については年々、強く求められるようになっています。

企業としては、このような意識・時代の変化をキャッチアップし、会社の業務内容・設備・対応などをより適切なものとしていく必要が求められています。

ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスでは、障害者差別解消法、または、障害者雇用促進法に関するご相談を受けています。対応にお悩みであればぜひベリーベスト法律事務所 所沢オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています