内引きが店舗で発生したとき、企業はどのように対応すべきか
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従業員が店舗の商品などを盗む「内引き」は、窃盗罪にあたる重大な犯罪行為です。
もし従業員による内引きが発覚したら、弁護士のアドバイスを参考にして、懲戒処分などを検討しましょう。
本コラムでは「内引き」の概要や発覚した場合の対処法、従業員に対する処分の内容などをベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
1、「内引き」とは
「内引き」とは、従業員(アルバイトを含む)などの内部者による、商品や金銭などの着服行為です。
外部者による万引き行為などと異なり、内引きは店舗などの内情に精通した者によって行われるため、より発覚しにくい方法で行われる傾向にあります。
また、内引きをした本人が罪の意識に乏しいケースが多いことも問題だといえます。
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(1)内引きの例
内引きの例としては、以下のような行為が挙げられます。
(例)- 店舗に並んでいる商品を、従業員が無断で持ち出す行為
- 店舗の在庫として保管されている商品を、従業員が無断で持ち出す行為
- 店舗に設置されているレジ内の金銭を、従業員が自分の懐に入れる行為
- 会社のオフィスに設置されている金庫内の金銭を、従業員が自分の懐に入れる行為
- 自動販売機内の金銭を、回収担当者が自分の懐に入れる行為
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(2)内引きと横領の違い
内引きには法律上の定義がありませんが、一般的には従業員などの内部者による窃盗行為を意味します。
また、従業員が会社の資金などを着服する行為としては、窃盗以外にも「横領」があります。
窃盗にあたる行為と横領にあたる行為の違いは「被害品を占有していたのが誰であるか」という点や、内引き行為をした者に与えられていた権限(「立場」)という点にあります。
内引きとは、会社(店舗など)が占有している被害品を行為者が会社の意思に反して盗む(窃取する)行為のことです。
これに対して横領は、もともと行為者が占有している被害品について、所有者でなければできないような処分をする行為のことです。
他人から占有を奪う窃盗に比べて、自分が占有している物を不法領得する横領は、行為者にとって誘惑的な要因があることを考慮して責任が軽減されるものとみなされ、法定刑が軽く設定されています。- 窃盗:10年以下の懲役または50万円以下の罰金(刑法第235条)
- 横領:5年以下の懲役(刑法第252条第1項)
しかし、業務上占有する物についての横領は「業務上横領罪」として横領罪とは別の犯罪になります。
業務上横領罪については委託信任関係を破壊することから責任が加重されており、窃盗罪と同等の「10年以下の懲役」が科されます(刑法第253条)。
そして、従業員による横領行為も、業務上横領罪として処罰されることになるのです。 -
(3)内引きの予防策
内引きを予防するための対策としては、以下のようなものがあります。
- ① 商品や金銭の保管場所を監視する
店舗内や倉庫内に防犯カメラ(監視カメラ)を設置して、商品や金銭の保管場所を監視することが考えられます。
「万引きGメン」とも呼ばれる監視員や警備員を導入することも検討しましょう。 - ② 在庫の保管場所へのアクセスを限定する
在庫の保管場所へ入室する際にはカードキーでロックを解除させるなど、保管場所へアクセスできる従業員を限定することが考えられます。
入退室記録についても管理できるため、内引きに対する抑止力になるでしょう。 - ③ 在庫確認や残高確認を頻繁に実施する
高頻度で在庫確認やレジの残高確認を行えば、内引きなどを早期に把握することができます。 - ④ キャッシュレス決済を推進する
店舗における決済方法をキャッシュレス中心とし、多額の現金をレジ内に準備しないようにすれば、内引きが発生した際の被害額を抑えられます。
- ① 商品や金銭の保管場所を監視する
2、内引きが発覚した場合における企業の対処法
従業員などによる内引きが発覚した場合は、以下のような対応をしましょう。
- ① 内引きに関する事実確認・証拠の確保
- ② 従業員に対する処分の検討
- ③ 再発防止策の検討
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(1)内引きに関する事実確認・証拠の確保
まずは内引きに関する事実確認を行い、事実であれば関連する証拠をできる限り確保してください。
内引きがあったと思われる場所に防犯カメラが設置されている場合には、その映像を確認すると内引きの現場が映っている可能性があります。
現場を直接撮影した映像などがない場合には、関連する部署の従業員に対してヒアリングを行いましょう。過去に内引きの現場を目撃したという証言などの手がかりを得られる可能性があります。
在庫確認やレジの残高確認の記録があれば、その記録から内引きが行われた時期を割り出すことができます。
当該時期において内引きを実行することが可能であった従業員については、念のため警戒を強めておきましょう。
また、内引きをする従業員は、再度内引きを行う可能性が高いといえます。
そのため、すでに行われた内引きの証拠が十分でない場合には、再度行われる内引きの現場の撮影を試みることも考えてください。
被害現場と思われる場所に防犯カメラを設置しておいて、再び内引きがなされたら行為者を追及しましょう。 -
(2)従業員に対する処分の検討
内引きをした従業員が判明した場合には、その従業員に対する処分を検討することになります。
窃盗として警察へ通報することのほか、従業員に対する懲戒処分を行うことも選択肢になります。
行為者である従業員の勤怠なども考慮したうえで、会社にとって最善と思われる処分を実施しましょう。 -
(3)再発防止策の検討
従業員による内引きが繰り返されないように、再発防止策を検討することも重要です。
具体的には、以下のような再発防止策を講じることが考えられます。- 店舗や倉庫などに防犯カメラを設置する
- 在庫の保管場所をカードキーやパスワードなどによりロックする
- 在庫確認や残高確認の頻度を増やす
内引きをした従業員に対する懲戒処分や、会社が新規に講じた再発防止策などを全従業員に周知することも、再発防止策の一環として有効です。
また、従業員研修の機会に内引きの違法性を啓発して、社内全体のコンプライアンス意識を高めることも検討しましょう。
3、内引きをした従業員に対する処分
内引きをした従業員に対しては、状況に応じて警察へ通報するほか、懲戒処分を行うことも検討してください。
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(1)警察への通報
内引きは窃盗罪にあたるため、警察に通報すれば捜査をしてもらえる可能性があります。
ただし、内引きの確たる証拠がなければ、警察はなかなか捜査に動いてくれません。
警察へ被害届を提出する際には、内引きの現場を撮影した防犯カメラ映像などを併せて提出することが望ましいといえます。 -
(2)懲戒処分
就業規則において懲戒処分に関する規程を定めていれば、内引きを理由とする懲戒処分を行うことができます。
懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用(労働契約法第15条)にあたらないように注意しなければなりません。
従業員の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となってしまいます。
内引きは犯罪行為であり、かつ会社の信頼を裏切る重大な非違行為であるため、懲戒解雇などの重い懲戒処分も認められる場合が多いといえます。
しかし、具体的な事情に照らして不当に重すぎる懲戒処分を行うと、従業員との間で深刻なトラブルに発展するおそれもあります。
懲戒処分を実施する前に、事前に弁護士に相談してください。
4、内引きをした従業員への対応は弁護士に相談を
従業員による内引きが判明した場合には、できるだけ早く弁護士に相談してください。
弁護士は、以下の対応を通じて、内引きに関するトラブルの収拾や今後のトラブル対策などをサポートいたします。
- ① 従業員に対する懲戒処分の検討・助言
内引きに関する具体的な事情を考慮しながら、法的に許容される懲戒処分の種類や内容などについて検討して、アドバイスいたします。 - ② 内引き対策の検討・助言
会社の実情に応じて、内引きについて実施することのできる具体的な予防策について検討して、アドバイスいたします。 - ③ 社内規程の見直し
在庫管理や残高管理などに関する社内規程を見直して、より実効的に内引きを予防することができる社内体制の整備をサポートいたします。
内引きへの対処や予防策に限らず、人事労務管理その他の企業法務に関するお悩みなども、弁護士に相談いただけます。
5、まとめ
従業員による内引きは、窃盗罪などの犯罪にあたる行為です。
社内における内引きが判明した場合には、警察への通報や従業員に対する懲戒処分を検討しましょう。
ただし懲戒処分を行う際には、懲戒権の濫用を避けるため、事前に弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、人事・労務管理に関するご相談を随時受け付けております。内引きへの対処法や予防策についても、被害の状況に応じた具体的なアドバイスを提供します。
内引きの被害に悩まれている経営者の方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています