虐待を疑われたら逮捕される? とるべき対策とは
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子どもへの暴力や育児放棄といった「虐待」がまねく悲惨な事件はあとを絶ちません。児童相談所虐待対応ダイヤル「189(イチハヤク)」や児童虐待防止を目指す団体による「オレンジリボン活動」などの積極的な広報が続いていますが、家庭という秘密性の高い環境では発覚しにくいのが現実です。
また、水面下の児童虐待の発見に期待される一方で、子どもが大声で騒いでいただけ、強く叱っただけといったケースでも通告されるリスクもあります。
もし、虐待の事実がないのに誤解した近隣の住民などによって通告されてしまった場合はどのように対応すればよいのでしょうか。また、どのようなケースであれば児童虐待となり、逮捕される可能性があるのでしょうか。本コラムでは「児童虐待」の容疑をかけられてしまったときに取るべき対応について解説します。
1、児童虐待とは? 適用される犯罪
「児童虐待」と聞くと、しつけと称して子どもに暴力をふるうケースを想像するのが典型的でしょう。
このような行為を規制する法律としては「児童虐待防止法」をイメージする方も多いはずですが、実は児童虐待防止法には個別の虐待行為を罰する規定は存在していません。
個別の虐待行為には、刑法に規定された犯罪が適用されます。
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(1)身体的虐待で問われる罪
児童虐待のもっとも典型的な形態が「身体的虐待」です。子どもに対して殴る・蹴る・突き飛ばす・髪の毛を引っ張る・物を投げつけるなどの暴力的な行為をはたらくケースが考えられます。
身体的虐待は、次のような罪に問われます。- 暴行罪(刑法第208条)
子どもに対して殴る・蹴るなどの暴力をはたらいたものの、怪我をさせなかった場合は暴行罪です。
有罪になると2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料が科せられます。 - 傷害罪(刑法第204条)
子どもに対して殴る・蹴るなどの暴力をはたらいて怪我をさせると傷害罪が適用されます。
刑法の条文では怪我の程度に条件が設けられていないので、骨折などの大けがではなく打撲・擦り傷程度の軽傷でも傷害罪の適用は免れられません。
法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
- 暴行罪(刑法第208条)
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(2)性的虐待で問われる罪
実の親や養親が子どもに対してわいせつな行為をはたらいたといった事件が報道されることもありますが、このようなケースは「性的虐待」として扱われます。
- 監護者わいせつ罪(刑法第179条1項)
子どもを現に監護する者であるという立場に乗じて、胸や性器を触るなどの行為をはたらくと監護者わいせつ罪に問われます。
従来、このような行為は刑法第176条の強制わいせつ罪で処罰されていました。ところが、強制わいせつ罪には暴行・脅迫という要件があり、親子関係のなかでは成立しないケースが多々あったため、本罪が制定されたという経緯があります。
法定刑は6か月以上10年以下の懲役です。 - 監護者強制性交等罪(刑法第179条2項)
監護者の立場に乗じて性交・肛門性交・口腔性交をはたらいた場合は監護者強制性交等罪です。以前は強制性交等罪の前進だった強姦罪として処罰されていましたが、監護者わいせつ罪と同様で暴行・脅迫という要件があったため立件しにくかったという経緯があり、本罪が制定されました。
法定刑は5年以上の有期懲役で、最長では20年の懲役が科せられます。
- 監護者わいせつ罪(刑法第179条1項)
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(3)育児放棄で問われる罪
子どもを保護する責任のある者が意図的にその責任を放棄すると、以下の罪とみなされる可能性があります。
- 保護責任者遺棄罪刑法(第218条)
暴力的な行為やわいせつ行為をはたらいていなくても、食事を与えない、病気なのに医師の診察を受けさせない、長時間にわたって放置するなどの「育児放棄(ネグレクト)」も虐待の形態のひとつです。
法定刑は3か月以上5年以下の懲役です。 - 保護責任者遺棄致死罪(刑法第219条)
育児放棄の結果として子どもが死亡してしまった場合は「保護責任者遺棄致死罪」となり、3年以上20年以下の懲役が科せられます。
- 保護責任者遺棄罪刑法(第218条)
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(4)心理的虐待で問われる罪
暴力行為・わいせつ行為がなくても、言葉の暴力や無言の圧力が「心理的虐待」にあたることもあります。
危害を加える内容を告げれば刑法第222条の「脅迫罪」が成立して2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられ、暴行・脅迫によって義務のないことをおこなわせれば刑法第223条の「強要罪」として3年以下の懲役が科せられます。
また、心理的虐待によって子どもが心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症した場合は、傷害罪が成立することもあります。
2、虐待容疑で逮捕されるとどうなるのか?
児童虐待の容疑で警察に逮捕されると、その後はどうなってしまうのでしょうか?
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(1)逮捕・勾留による身柄拘束を受ける
警察に逮捕されると、48時間を限度とした身柄拘束を受けます。この期間は逮捕容疑に関する取り調べが進められることになり、警察署の留置場へと収容されるため、自宅に帰ることも、会社や学校へと通うことも許されません。
さらに検察庁へと送致されると、ここでも検察官による取り調べが進められます。
身柄拘束の限度は送致から24時間以内です。
逮捕による身柄拘束が限界を迎える前に検察官が「勾留」を請求し、裁判官がこれを許可すると、そこからは勾留による身柄拘束が始まります。勾留の限界は10日間以内ですが、一度に限り延長が認められるため、勾留による身柄拘束は最長で20日間にわたります。 -
(2)検察官が起訴・不起訴を判断する
勾留期限を迎える日までに、検察官が起訴・不起訴を判断します。刑事裁判を起こして罪を問うべきと判断されれば起訴となり、刑事裁判を開く必要はないと判断されれば不起訴です。
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(3)刑事裁判で有罪になると刑罰を受ける
刑事裁判では、検察官が犯罪の存在を証明する証拠を示し、裁判官に処罰を求めます。
これに対して、罪を問われる被告人側は、犯罪が存在しないことの証明や、犯罪は存在していても自身にとって有利となる証拠を示します。
3、虐待の誤解をとくためには弁護士のサポートが重要
児童虐待の事実はないのに、周辺住民の誤解から児童相談所へと通告され、刑事事件に発展してしまうと、弁明を聞き入れてもらえないまま逮捕されてしまう危険があります。
虐待の誤解をとき、いわれのない処分を回避するためには、早い段階で弁護士にサポートを求めることが重要です。
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(1)逮捕後72時間以内に面会できるのは弁護士だけ
刑事事件の容疑をかけられて警察に逮捕されると、警察段階で48時間以内、検察官の段階で24時間以内、合計で72時間以内に身柄拘束を受けます。
この期間は、家族・友人などとの面会は許可されません。面会できるのは、常に自由な接見を認められている弁護士だけです。
逮捕直後の取り調べで供述した内容は、検察官による起訴・不起訴の判断や、のちの刑事裁判において重要な証拠として扱われます。ところが、取調官は犯罪事実を証明するための自白を得るために強圧な取り調べをおこなうケースもあり、精神的なサポートなしでは「虐待などしていない」と主張することさえ難しくなる可能性があります。
弁護士は、警察・検察官による取り調べへの対応方法をアドバイスしたり、強圧な取り調べに対して抗議を申し入れたりして、いわれのない容疑をかけられて逮捕されてしまった方をサポートします。 -
(2)虐待が存在しなかった証拠の収集を依頼できる
捜査機関が逮捕に踏み切るからには「虐待が存在している」と疑うに足りる何らかの証拠をつかんでいると考えるべきです。しかし、虐待が存在しない以上は、捜査機関が考える証拠に誤りがあるのは間違いありません。
実際に虐待などしていなければありのままの事実を述べるだけで信用されるべきと考えるかもしれませんが、検察官が示した証拠が採用されてしまえば有罪にされてしまいます。
いわれのない容疑で刑罰を科せられてしまう「冤罪(えんざい)」を回避するためには「虐待は存在しなかった」あるいは「検察官が示す証拠には疑いが残る」という証拠を示さなければなりません。
子ども自身の証言、日ごろの家庭環境、子どもの発育状況、就学状況、親類や親しい人物からの有利な証言などを取りそろえる必要があるので、容疑をかけられて逮捕されている本人が対応するのは不可能です。ただちに弁護士に相談して、検察官が主張する証拠に対応できる証拠の収集を依頼しましょう。
4、まとめ
児童虐待を疑われてしまうと、たとえ事実とは反する容疑でも警察に逮捕され、長期にわたる身柄拘束を受けてしまうおそれがあります。さらに、不確かな証拠を裁判官が採用してしまうと、いわれのない容疑で刑罰が科せられてしまうでしょう。もちろん、子どもとも引き離されてしまうおそれも高いため、積極的に誤解をとかなくてはなりません。
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- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています