不正アクセス禁止法の時効|抵触するケースや罰則についても解説

2023年02月02日
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不正アクセス禁止法の時効|抵触するケースや罰則についても解説

令和4年、都内に住む男が「不正アクセス禁止法」の違反などの容疑で逮捕されました。埼玉県在住の男性が契約している金融機関のインターネットバンキングに不正アクセスし、自分名義の口座に不正送金した疑いがもたれています。

不正アクセス禁止法違反といえば、悪質なインターネット犯罪や金融犯罪などに適用されるイメージが強く、あまり身近には感じられないかもしれません。しかし、事例の被害者は「SNSを通じたやり取りの中でだまされた」と語っており、身近なところで発生する可能性のある犯罪だといえます。

本コラムでは「不正アクセス禁止法違反」に問われ得る可能性がある行為を挙げながら、本罪の罰則や時効の時期、容疑をかけられてしまった場合の解決方法などを、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。

1、不正アクセス禁止法とは|違反行為の典型的なケース

まずは「不正アクセス禁止法」がどのような法律なのかを確認していきましょう。

  1. (1)不正アクセス禁止法の目的

    不正アクセス禁止法とは、正しくは「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」といいます。

    本法は、インターネット犯罪に対応するため平成11年に創設されたもので、不正アクセス行為を禁止して罰則を設け、高度情報通信社会の健全な発展に寄与することを目的としたものです。

  2. (2)法律で禁止されている5つの行為

    不正アクセス禁止法第3条には「何人(なんぴと)も、不正アクセス行為をしてはならない」と定め、不正アクセス行為を禁止しています。

    本法において定められている不正アクセス行為とは、次の5類型です。

    不正アクセス罪(第3条) 他人のID・パスワードを使ってアクセスが制限されているコンピューターにインターネットを経由して不正にログインする「なりすまし」や、プログラムの欠陥や脆弱(ぜいじゃく)性を突いてシステムに侵入する「セキュリティホールへの攻撃」などの行為
    不正取得罪(第4条) 不正アクセスの目的をもって、他人のID・パスワードなどを取得する行為
    不正助長罪(第5条) 業務上の必要など正当な理由がある場合を除いて、他人のID・パスワードなどを第三者に教える行為
    不正保管罪(第6条) 不正アクセスの目的をもって不正に取得したID・パスワードなどを保管する行為
    不正入力要求罪(第7条) アクセス管理者になりすまして他人にID・パスワードなどを不正に入力させる「フィッシング」などの行為
  3. (3)不正アクセス禁止法違反に問われる典型的な行為

    冒頭で紹介した事例のように、不正アクセス禁止法違反といえばインターネットを悪用した不正送金事案のイメージが強いかもしれません。

    しかし、法律の定めに照らすと、意外にも日常生活に身近なシチュエーションでも違反が成立することがあります。

    • 恋人の浮気を疑い、事前に盗み見ていたパスワードを使ってスマートフォンのロックを解除した
    • 元交際相手の近況を知りたいと考えて、交際当時に知っていたID・パスワードを使って相手のSNSにログインした
    • 会社のパソコンに同僚のID・パスワードを使ってログインした
    • 偶然入手した他人のネットバンキングのID・パスワードを使ってショッピングサイトで決済した


    これらの行為は、不正アクセス禁止法違反に問われるおそれのある行為です。不正アクセスにあたる行為があれば処罰の対象なので、相手になりすましてコメントを投稿した、不正送金して相手の口座からお金を奪ったなどの実害がなくても罪を逃れることはできません

2、不正アクセス禁止法違反の罰則と時効

不正アクセス行為には、法律による罰則が設けられています。

  1. (1)禁止行為を犯した場合の罰則

    不正アクセス禁止法違反にあたる各罪の罰則は次のとおりです。

    不正アクセス罪 3年以下の懲役または100万円以下の罰金(第11条)
    不正取得罪・不正保管罪・不正入力要求罪 1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第12条1項)
    不正助長罪
    • 不正アクセスの目的があることを知っていた場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第12条1項)
    • 不正アクセスの目的があることを知らなかった場合は30万円以下の罰金(第13条)


    どの行為でも懲役が予定されているので、犯行の内容や悪質性などに応じて刑務所に収監されてしまうおそれもある重罪だと認識したほうがよいでしょう。

  2. (2)3年が過ぎると罪を問われない

    犯罪には「時効」が存在します。

    時効にはさらに「刑の時効」と「公訴の時効」がありますが、一定期間を過ぎると罪を問われないという一般的なイメージにつながるのは「公訴の時効」です。

    公訴時効の定めは、刑事手続きのルールを規定している刑事訴訟法の第250条に規定されています。
    同条2号によると、長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金にあたる罪の公訴時効は「3年」です。

    不正アクセス禁止法が定める罰則は最も重いものでも3年以下の懲役であり、長期5年に満たないので、不正アクセス行為の時効は3年になります。つまり、不正アクセス行為から3年が経過すれば検察官が刑事裁判を提起できなくなるので、罪を問われません

    ここで注意しなければならないのが、犯罪が「いつ終了したのか?」という点です。

    たとえば、何度も不正アクセスをはたらいていた場合は、その度に罪を犯していることになるので、最初の行為から3年が過ぎていても直近3年以内の行為については処罰の対象になります。

    また、ID・パスワードの不正保管は、不正に保管している限り犯罪の状態が継続するので、処分しなければいつまでたっても時効が完成しません。処分したとしても、いつ、どのように処分し、それを証明する証拠は存在するのかという点が問題となって詳しく捜査を受けるので、時効成立によって罪を逃れようと考えるのは危険です。

3、不正アクセス行為で実際に刑罰を受けた事例

不正アクセス行為が犯罪になるという点は理解できたでしょう。
すると、実際に不正アクセス行為をはたらいた人がどんな刑罰を受けたのかも気になるはずです。

ここでは、不正アクセス行為で実際に刑罰を受けた事例を紹介します。

  1. (1)他人のID・パスワードでフリーメールをのぞき見したケース

    【高松地裁丸亀支部 平成14年10月16日 平成14(わ)62】
    インターネットを通じて知り合った女性への嫌がらせをもくろみ、複数回にわたって女性のID・パスワードでフリーメールにアクセスして、メールの内容をのぞき見したり、女性になりすましてメッセージを送信したりといった行為を繰り返した事例です。

    本事例では、本人からID・パスワードを聞き出したり、だまし取ったりしたのではなく、何度も心当たりのある英数字などを入力して成功するまで探索していました。本人にログインされないようにパスワードを変更するなど、犯行態様も悪質でした。

    裁判所は、懲役1年の判決を下しましたが、発覚していない余罪も自白したこと、被害者が厳重処罰を望んでいないこと、前科もなく家族とともに生活しており定職にも就いていることなどが評価され、3年間の執行猶予が付されました。

  2. (2)銀行の偽サイトを開設して他人のID・パスワードを盗用したケース

    【東京地裁 平成29年4月27日 平成26特(わ)927】
    インターネットバンキングサービスを提供している銀行になりすました精巧な偽サイトを開設し、銀行からの通知を装って契約者にメールを送信して偽サイトに誘導させたのち、口座番号・ログインパスワード・暗証番号を盗み出し、不正アクセスして不正送金した事例です。

    本事例では、不正入力要求罪・不正取得罪・不正保管罪にあたる行為をはたらいたうえで不正アクセス罪を犯し、さらに自分の口座あてに不正送金したり、契約者が届け出ているメールアドレスを無断で変更したりといった行為をかさねています。

    不正アクセス行為を手段として、電子計算機使用詐欺・私電磁的記録不正作出・同供用・不正指令電磁的記録供用にあたる罪も追及され、懲役8年の実刑判決を受けました。

4、逮捕や刑罰に不安を感じているなら弁護士への相談を急ぐべき

不正アクセス禁止法の定めに照らすと、フィッシングや不正送金などの悪質なケースだけでなく、親しい間柄や会社の内部でのやり取りでも違法になってしまうおそれがあります。

逮捕や刑罰に不安を感じているなら、弁護士への相談を急ぎましょう。

不正アクセス行為が発覚して恋人・元交際相手・会社の同僚など近い関係にある人から責任を追及されている状況なら、真摯(しんし)に謝罪したうえで示談金を支払うことで穏便に解決できる可能性があります。警察への届出を見送ってもらえば捜査を受けないので、逮捕や刑罰の危険は回避できるでしょう。

ただし、不特定・多数の人をねらったフィッシング行為や、会社・官公庁のサイトへの不正アクセス行為などは、発覚すれば厳しい追及を避けるのは困難です。

このようなケースでは、深い反省を示す、前科や前歴がなく悪質な動機も存在しないなど、加害者にとって有利な証拠を示す必要があるので、法律の深い知識や刑事事件の解決実績が高い弁護士のサポートが欠かせません。

先に紹介した事例のように、刑事裁判に発展しても情状酌量が認められて執行猶予が付される可能性もあるので、警察からの呼び出しや逮捕を待たず、できるだけ早い段階で弁護士に相談しましょう。

5、まとめ

「不正アクセス禁止法」は、インターネットを悪用したなりすましやフィッシングといった不正行為を禁止する法律です。悪質な行為に適用されるのは当然ですが、恋人・知人・同僚といった身近な間柄でも犯罪が成立してしまうので、不正アクセスにあたる行為は厳に慎まなくてはなりません。

不正アクセス行為を疑われて個人間でトラブルになった場合は、迅速な示談交渉による解決が期待できます。また、不特定・多数をねらったフィッシングなどの悪質な行為で容疑をかけられてしまった場合も、迅速な弁護活動が欠かせないので、いずれにしても弁護士のサポートは必須です。

不正アクセス禁止法違反の時効は3年ですが、3年の経過を待っていれば罪を免れられるなどと考えてはいけません

不正アクセス禁止法違反にあたる行為でトラブルに発展しているなら、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスにご相談ください。逮捕や厳しい刑罰の回避の実現を目指して、被害者との示談交渉や加害者にとって有利な証拠の収集といった弁護活動を尽くします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています