痴漢は何罪に問われる? 刑罰内容や逮捕後の流れを弁護士が解説
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埼玉県警鉄道警察隊の公表によると、2023年中の痴漢被害相談件数は、トップが武蔵野線で、2位はJR高崎線、3位は東武東上線でした。
電車内などで痴漢の疑いをかけられた場合、どのような犯罪に問われることになるのでしょうか。また、痴漢で有罪となった場合には、刑務所に入らなければならないのでしょうか。
この記事では、痴漢行為で成立する可能性がある犯罪や刑罰、痴漢で逮捕された場合の流れなどについて、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が分かりやすく解説していきます。
目次
1、痴漢は何罪に問われる? 迷惑防止条例と刑法の違い
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(1)不同意わいせつ罪
痴漢をした場合には、不同意わいせつ罪に問われる可能性があります。
不同意わいせつ罪とは、一定の行為や事由により、「同意しない意思を形成し、表明しもしくは全うすることが困難な状態にさせ、またはその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした」場合に成立する犯罪です(刑法第176条)
そして、一定の行為や事由として、以下の8つが規定されています。- ① 暴行もしくは脅迫を用いること、またはそれらを受けたこと
- ② 心身の障害を生じさせること、またはそれがあること
- ③ アルコールもしくは薬物を摂取させること、またはそれらの影響があること
- ④ 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること、またはその状態にあること
- ⑤ 同意しない意思を形成し、表明し、または全うするいとまがないこと
- ⑥ 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、もしくは驚がくさせること、またはその事態に直面して恐怖し、もしくは驚がくしていること
- ⑦ 虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること
- ⑧ 経済的または社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること、またはそれを憂慮していること
具体的には、身体を抑えつけて暴行したり、「動いたら痛めつける」など脅迫をしたりして女性の身体に触れる場合だけでなく、飲酒で酩酊状態にある状態や疲れて睡眠状態にある状態に乗じて身体を触ったり、恐怖で抵抗することができない状態の相手の身体に触れたりする場合には、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
また、不同意わいせつ罪は刑法改正により新設された犯罪であるため、同法が施行された令和5年(2023年)7月13日以降に発生した痴漢事件に適用されることになります。 -
(2)強制わいせつ罪
2023年7月12日以前に行われた痴漢行為については、強制わいせつ罪や準強制わいせつ罪に問われる可能性があります。
「13歳以上の者に対し、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をした」場合や、「13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした」場合には、強制わいせつ罪が成立します(旧刑法第176条)。
また、「人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせてわいせつな行為をした」場合には、準強制わいせつ罪が成立します(旧刑法第178条1項)。
上記のように旧刑法においては、「暴行または脅迫」「心神喪失」「抗拒不能」という要件に該当する必要がありました。これに対し、改正後の不同意わいせつ罪では、これまでの処罰範囲をより拡大しています。 -
(3)迷惑防止条例違反
痴漢行為は、各都道府県が制定している迷惑防止条例違反の罪に問われる可能性があります。
迷惑防止条例は、各都道府県が痴漢や盗撮行為などを取り締まるために制定している自主条例となります。
東京都を例に見てみると、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」が制定されています。
同条例5条には、「何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。(1)公共の場所または公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から、または直接に人の身体に触れること」と規定されています。
したがって、電車やバス、公道などで女性の身体を触るという典型的な痴漢行為は、この迷惑防止条例に違反する可能性が高いことになります。 -
(4)迷惑防止条例と刑法の違いとは?
条例は、刑法と違って、適用を受ける都道府県によってその内容が異なります。ある地域では禁止される行為が、別の地域では禁止されていないという可能性もあるので注意が必要です。
また、痴漢行為の悪質性が高い場合には、刑法(不同意わいせつ罪)が適用され、比較的軽微な痴漢の場合には迷惑防止条例が適用される可能性がありますが、悪質性については総合的に判断されるため明確な判断基準が存在しているわけではありません。
加えて、都道府県をまたいで移動する電車や飛行機内での痴漢行為の場合には、適用される条例が不明確な可能性があり、そのような場合には刑法が適用されることになります。
2、痴漢で逮捕された場合はどうなる?
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(1)現行犯逮捕または後日、通常逮捕される
痴漢行為が発覚した場合には、逮捕される可能性があります。痴漢に対する逮捕には「現行犯逮捕」と「通常逮捕」があります。
痴漢行為が発覚し、その場で周囲の人に取り押さえられた場合には、現行犯逮捕になります。刑事訴訟法には、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と規定されています(刑事訴訟第231条)。
痴漢で現行犯逮捕された場合には、駅長室に連行され、警察に身柄が引き渡されることになります。
また、現行犯として逮捕されずとも、後日、通常逮捕もしくは任意の出頭要請がなされる可能性があります。痴漢行為をしてその場では逃げおおせたとしても、被害者が被害届を提出して捜査がなされ容疑者が特定されることがあります。
そのような場合には、逮捕令状を携帯した捜査官が突然自宅を訪れたり、容疑者の元に出頭するように要請する連絡がきたりすることがあります。 -
(2)警察による取り調べ
痴漢の容疑で逃亡・罪証隠滅のおそれがある場合には、逮捕されることになります。痴漢容疑で逮捕された場合、まずは警察による取り調べが行われることになります。
警察による取り調べは、逮捕から48時間以内に行われ、引き続き身体拘束の必要があるか否かが判断されます。
嫌疑が不存在・不十分の場合や、犯罪事実が軽微で検察官への送致が必要ないと判断された場合には、釈放される可能性があります。 -
(3)検察に送致・勾留・起訴不起訴の判断
警察が留置の必要があると判断した場合には、容疑者の身柄を検察官に送致することになります。事件の送致を受けた検察官は、身柄を受け取ったときから24時間以内に、さらに勾留請求するかを判断することになります。
容疑者の疑いが晴れず、逃亡の意志があるなどとして勾留請求がされると、10日間の勾留がなされることになり、さらに追加で10日間を上限として勾留が延長されるおそれがあります。
以上のように最大23日間の身体拘束期間中に捜査が実施され、容疑者を起訴するか・不起訴とするのかを検察官は判断することになります。 -
(4)刑事裁判
捜査の結果、容疑者には刑罰を科すべきであると検察官が判断した場合には、裁判所に公訴が提起(起訴)され、刑事裁判が行われることになります。
起訴されることで、被疑者は被告人という立場に変わることになります。被告人は保釈が認められない限り、裁判まで引き続き身体拘束を受けることになります。
刑事裁判では、証拠調べや弁論手続きが行われ、裁判所が被告人に対して判決を言い渡すことになります。
3、痴漢で適用される刑罰|執行猶予や再犯は?
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(1)痴漢の刑罰は?
痴漢で科せられる可能性のある刑罰は以下の通りです。
- 不同意わいせつ罪……6月以上10年以下の懲役(拘禁刑)
- 強制わいせつ罪・準強制わいせつ罪……6月以上10年以下の懲役
- 迷惑防止条例違反……6月以下の懲役または、50万円以下の罰金。常習の場合は1年以下の懲役、または100万円以下の罰金(東京都迷惑防止条例第8条1項2号、8項)。
なお拘禁刑とは、刑務所などに収容され自由をはく奪される刑罰の1種で、これまでの懲役刑と禁錮刑を1本化したものです。拘禁刑は2025年6月に施行見込みで、それまでは懲役とみなされます。
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(2)執行猶予はつくか?
痴漢によって迷惑防止条例違反の罪に問われた場合、初犯であれば実刑となる可能性は低く、執行猶予つき有罪判決となる可能性があります。
執行猶予が付されると、基本的には、刑務所に収容されることなく日常生活を送ることができます。ただし、猶予期間中に再び罪を犯した場合には執行猶予が取り消され、猶予を受けていた前の刑罰との合計が科されることになってしまいます。 -
(3)再犯の場合には?
痴漢の再犯の場合には、以前の痴漢行為をまったく反省していない・今後も痴漢行為を繰り返すおそれがあるとして起訴される可能性が高くなります。また初犯に比べると厳しい刑罰が科されるおそれがあり、実刑判決が下される可能性も高いでしょう。
被害者との示談が成立している場合には、不起訴処分となったり、執行猶予が付されたりする可能性もあります。
4、痴漢で罪に問われた場合は弁護士に相談を
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(1)相手との示談を進めるなどの解決策を提案してくれる
痴漢で逮捕された場合には、すみやかに被害者との示談を進める必要があります。しかし、性犯罪などは被害感情が大きい可能性があり、話し合いに応じてくれないおそれもあります。
そのようなケースであっても、刑事事件の実績がある弁護士であれば、臨機応変に粘り強く交渉を継続することで示談が進む可能性が高まります。同時に、さまざまな解決策や弁護方針の提案により、刑事事件を解決へと導きます。 -
(2)早期解決に向けて対応してくれる
刑事弁護の実績がある弁護士であれば、迅速に弁護活動を開始することで、事件が早期解決する可能性を高めます。
特に痴漢で逮捕された場合に釈放を目指すのであれば、逮捕から検察官に送致されるまでの48時間、さらに勾留されるまで72時間というタイムリミットの中で、適切な弁護活動を行う必要があります。
痴漢の容疑をかけられた場合は、ただちに弁護士に相談することをおすすめします。
5、まとめ
痴漢で逮捕された場合、不同意わいせつ罪・強制わいせつ罪、もしくは各都道府県の迷惑防止条例違反に問われる可能性があります。
起訴され実刑になった場合には、懲役刑や罰金刑が科されるおそれがありますが、執行猶予つき懲役刑の場合には、刑務所に入る必要はなく、日常生活を送ることができます。
ただし、痴漢の容疑をかけられた、罪に問われたなどの場合は、思わぬスピードで捜査が進んでいくことも少なくありません。ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスには、刑事事件の実績がある弁護士が在籍しております。刑事事件にお悩みの際は、まずはお早めに当事務所までご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています