退職勧奨と退職強要の違いとは? 違法性や対応方法を解説
- 不当解雇・退職勧奨
- 退職勧奨
- 退職強要
- 違い
2021年に労働者から埼玉労働局に寄せられた法違反の是正を求める申告(新規分)は759事業場でした。そのうち、解雇に関するものは100件でした。
会社が従業員に対して行う退職勧奨は、強制に及ぶ場合は「退職強要」として違法となります。もし違法な退職勧奨(退職強要)を受けた場合には、すぐに弁護士まで相談することをおすすめします。
今回は退職勧奨と退職強要の違いや、退職勧奨(退職強要)を受けた場合の対処法などにつき、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
出典:「令和3年の労働基準関係法令に関する監督指導の実施結果」(埼玉労働局)
1、退職勧奨・退職強要・解雇の違いと関係性
退職勧奨と退職強要は、いずれも従業員に対して退職を求める行為であるものの、似て非なるものです。
任意を前提に行われる退職勧奨に対して、退職強要は強制の色が強く、事実上解雇とも判断できる可能性があるからです。
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(1)退職勧奨と退職強要の違い
退職勧奨と退職強要は、いずれも法律上の用語ではありませんが、一般的には以下の意味で用いられます。
(a)退職勧奨
使用者が労働者に対して、雇用契約の合意解約を勧誘する行為です。
(b)退職強要
退職勧奨のうち、使用者の労働者に対する強制を伴うものを意味します。
退職勧奨は、従業員が受け入れるかどうかを任意に判断できる限り、必ずしも違法ではありません。これに対して、強制を伴う退職強要に及ぶ場合は違法となる可能性が高いです。
なお、退職勧奨に応じて退職した場合、雇用保険の受給との関係では、自己都合退職ではなく会社都合退職扱いとなります。 -
(2)退職強要は解雇に等しい
「退職は任意」という建前をとりながら、実際には強制的に従業員を退職させようとする退職強要は、事実上の解雇と同視すべきです。
使用者が労働者を解雇するには、解雇の種類に応じて以下の解雇要件を満たさなければなりません。(a)懲戒解雇
就業規則上の懲戒事由に該当することが必要です。
(b)整理解雇
以下の4要件を総合的に考慮して、解雇の相当性が認められることが必要です。- 整理解雇の必要性
- 解雇回避努力義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 労働者に対する説明を尽くすなど、手続きの妥当性
(c)普通解雇
雇用契約上の解雇事由に該当することが必要です。
さらに、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は無効となります(解雇権濫用の法理、労働契約法第16条)。
退職強要が行われるケースでは、上記の解雇要件を満たしていないことが大半です。そのため、解雇と同視すべき退職強要については、違法・無効となる可能性がとても高いといえます。
2、退職勧奨が違法な退職強要に当たるケースの例
退職勧奨が違法な退職強要に当たるケースとしては、以下の例が挙げられます。
- 何度もしつこく退職勧奨が行われた場合
- 圧迫面談によって退職勧奨が行われた場合
- 退職勧奨を拒否したことを理由に不利益処分が行われた場合
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(1)何度もしつこく退職勧奨が行われた場合
会社から何度もしつこく退職勧奨が行われた場合、労働者が大きなプレッシャーを感じることは間違いありません。ストレスによって気力と体力を奪われた結果、退職に同意せざるをえなくなることは容易に想像できます。
回数や頻度などの程度問題ではありますが、何度もしつこく退職勧奨を行うことは、労働者の選択の余地を事実上奪ってしまう点で、違法な退職強要と評価される可能性があります。 -
(2)圧迫面談によって退職勧奨が行われた場合
暴力や暴言を用いて退職勧奨が行われた場合や、上司・同僚・人事部担当者などの多人数が参加して、圧迫面談のような形で退職勧奨が行われた場合には、違法な退職強要に当たると考えられます。
このような形で退職を迫られれば、労働者としては、自分の身を守るため退職に応じざるを得ないと考えてしまう可能性が高くなります。つまり、労働者の選択の余地を奪っているため、違法な退職強要と評価すべきでしょう。 -
(3)退職勧奨を拒否したことを理由に不利益処分が行われた場合
退職勧奨を拒否した労働者に対して、懲戒処分や閑職への配置転換が行われた場合も、違法な退職強要に当たる可能性があります。
「不利益処分を受け入れるくらいなら退職した方がよい」という心理を労働者に与える点で、事実上退職を強要していると評価されうるからです。
そもそも、退職勧奨の拒否を理由とする懲戒処分は、懲戒権の逸脱または濫用として無効となる可能性が高いです。また、退職勧奨拒否の報復として閑職への配置転換を行った場合、パワハラに当たり違法となります。
もし退職勧奨を拒否したことを理由に、会社からこのような不当な扱いを受けた場合は、速やかに弁護士までご相談ください。
3、退職勧奨・退職強要をされた場合の対処法・注意点
会社から退職勧奨・退職強要を受けた場合には、以下のポイントに留意して対応しましょう。
- 退職届は提出しない|会社との協議の場を持つべき
- 退職は拒否することも可能
- 退職する場合は、退職金のアップなどを目指す
- 退職強要・解雇をされたら労働審判・訴訟で争う
どのように対応すべきかわからない場合は、弁護士への相談をおすすめします。
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(1)退職届は提出しない|会社との協議の場を持つべき
会社に退職届の提出を求められても、直ちにそれに応じることは得策ではありません。退職届の提出を後悔する可能性があるからです。
ひとまず退職勧奨に対する返事は保留して、会社に協議を提案しましょう。 -
(2)退職は拒否することも可能
退職勧奨に応じるか否かは、労働者が自由に決められます。したがって、退職したくない場合は拒否することも可能です。
退職勧奨を拒否したとしても、会社が労働者を解雇できる場合はとても限定的です。よほど悪質な非違行為があったケースなどを除けば、解雇は違法となる可能性が高いでしょう。
もちろん、「退職勧奨を拒否したから」という短絡的な理由で解雇することは認められません。
労働者としては、自分に選択権があるという意識を持って、退職勧奨に関する会社との協議に臨みましょう。 -
(3)退職する場合は、退職金のアップなどを目指す
状況によっては、会社の退職勧奨を受け入れて、新天地への転職を目指す選択も考えられます。退職勧奨をしてくるような会社には、もはや自分が活躍できる場はないと割り切ることは合理的な考え方のひとつでしょう。
退職を受け入れる意思があるとしても、その選択権があくまでも労働者側に存在することは、会社と退職条件の交渉を行う際の強みです。退職を受け入れる条件として、退職金の増額などを主張すれば、会社の譲歩を引き出せる可能性があります。 -
(4)退職強要・解雇をされたら労働審判・訴訟で争う
会社から違法な退職強要を受けた場合や、一方的に解雇された場合には、その違法性を主張して争いましょう。
会社が協議に応じない場合は、法的手続きである労働審判や訴訟を通じて争うことが考えられます。(a)労働審判
裁判所で行われる非公開の手続きです。裁判官1名と労働審判員2名が、労使双方の主張を公平に聞き取った上で、調停または労働審判により紛争解決を図ります。
審理が原則として3回以内で終結するため、短期間での解決を期待できる点が特徴です。
参考:「労働審判手続」(裁判所)
(b)訴訟
裁判所で行われる公開の手続きです。労働者側は、解雇の無効や解雇期間中の賃金の支払いを主張し、会社側がそれに反論する形で訴訟手続きが進行します。
労働審判に比べて、証拠に基づく厳密な主張・立証が求められ、手続きも長期化しやすいのが特徴です。
労働審判や訴訟は専門性の高い手続きであるため、労働者の方が自力で対応するのは大変です。スムーズに準備を整え、万全の体制で労働審判や訴訟に臨むためには、弁護士へのご依頼をお勧めいたします。
4、違法な退職強要を受けたら弁護士に相談を
会社から違法な退職強要を受けた場合には、すぐに弁護士へ相談することをおすすめします。
労使トラブルについて、労働者が自力で会社に立ち向かうのは非常に大変です。職場にいながら会社に対抗するのであれば、周囲からのプレッシャーもあって、精神的に大きな負担が掛かってしまうでしょう。また、会社の主張の当否を判断できず、不利な条件で退職を受け入れてしまうケースも少なくありません。
弁護士は、会社による違法な退職強要や不当解雇を許さず、労働者の権利を守るために尽力します。また、過去の裁判例や実務のスタンダードを踏まえつつ、会社との協議や労働審判・訴訟を通じて、退職強要や不当解雇の問題を適切な条件で解決できるようサポートします。
会社による退職強要・不当解雇に悩んだら、労働トラブルの解決実績がある弁護士へ早めに相談しましょう。
5、まとめ
通常の退職勧奨は必ずしも違法ではありませんが、任意の建前をとりつつ、事実上退職を強制する「退職強要」は違法の可能性が高いです。
会社から違法な退職強要を受けた場合や、一方的に不当解雇された場合には、会社に対して復職や退職金の増額などを主張しましょう。労働者側にとって有利な解決を得るためには、弁護士を通じて対応することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、労使トラブルに関して、労働者の方からのご相談を随時受け付けております。
会社の退職強要や不当解雇につき、その違法性を主張して争いたい労働者の方は、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスへご相談ください。
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