まかないを作ったり食べたりする時間は労働時間に入る?
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埼玉県が公表している労働相談の状況に関するとりまとめによると、令和3年度の労働相談の件数は5432件で、前年よりも279件増加しています。相談内容別にみると、「労働時間、休日・休暇」に関する相談が551件あり、全体で4番目に多い相談内容となっていました。
飲食店で働いていると、店側から「まかない」と呼ばれる食事が提供されることがあります。飲食店で調理したおいしい料理を食べることができますので、まかないを楽しみにしている労働者も少なくないでしょう。しかし、飲食店によっては、まかないの調理をしている時間やまかないを食べている時間を休憩時間として扱われているところもあるのです。
本コラムでは、まかないを作る時間や食べる時間と労働時間との関係について、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
1、「まかない」と労働基準法
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(1)まかないとは
まかないとは、飲食店が従業員に対して提供する食事のことをいいます。
まかないは、その店で提供しているメニューや余った食材などを利用して作ることが多いです。
まかないを提供することにおり、食材を余らせることなく使い切ることができ、調理を担当する従業員の訓練や新メニュー開発の機会になることから、多くの飲食店でまかないの提供が行われています。 -
(2)労働基準法上の労働時間とは
労働基準法上の労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間と定義されています。
すなわち、使用者から一定の行為を義務付けられていた場合や一定の行為を余儀なくされていた場合には、使用者の指揮命令下にあったものと評価され、労働基準法上の労働時間に該当します。
労働基準法上の労働時間に該当する場合には、労働者は、使用者に対して、労働時間に応じた賃金を請求することができます。
また、法定労働時間を超えて働いた場合には、所定の割増率によって増額された割増賃金を請求することができます。
このように労働時間に該当するかどうかは、労働者が受け取る賃金に影響することになりますので、労働者にとっては非常に重要な事項といえます。
2、まかないを作る時間は労働時間になる?
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(1)まかないは希望者が自分で調理する職場の場合
まかない付の職場の中には、まかないは希望者だけが食べることになっており、希望者は自分で調理することになっている職場があります。
このような職場では、まかないを作る時間は、労働時間にはあたらないと考えられます。
労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことですが、まかないは希望者が自分で調理するという職場では、まかないを作ることが使用者から義務付けられていません。
そのため、まかないの調理にかかる時間は、労働基準法上の労働時間にあたらず、従業員がまかないを作る行為は「休憩時間の自由な利用の一態様として調理を行っているもの」として扱われるのです。 -
(2)まかないは全員が食べることになっている職場の場合
「まかないは全員が食べることになっており、自分でまかないを作らなければならない」という職場の場合には、まかないを作る時間は労働時間にあたると考えられます。
まかないの調理は、業務との直接の関連性は低いといえますが、使用者からまかないの調理を義務付けられている以上は、まかないを調理している時間も使用者の指揮命令下に置かれていると評価されるためです。
また、調理を担当するスタッフがホールスタッフのまかないを作ることになっている場合にも、調理担当スタッフがまかないの調理を義務付けられていることから、調理にかかる時間は労働時間として評価されます。
3、まかないを食べる時間の扱いは?
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(1)食事の時間は原則として休憩時間
労働基準法の休憩時間とは、労働者が労働から離れることを保障されている時間をいいます。休憩時間の長さは労働時間の長さに応じて定められており、労働時間が6時間を超え8時間以下の場合は45分、8時間を超える場合は1時間の休憩が必要です。
まかないを食べる時間は労働とは無関係な時間であるため、原則として、休憩時間にあたります。 -
(2)例外的に労働時間になるケース
まかないを食べる時間であったとしても、以下のようなケースに該当する場合には、休憩時間ではなく労働基準法上の労働時間にあたる可能性があります。
この場合には、使用者に対して、未払い賃金の請求が可能になります。- ① 接客対応が必要な場合
使用者から休憩を与えられていたとしても、労働から離れることが保障されていなければ、休憩時間とはいえません。
休憩時間といえるかどうかは、労働者が与えられた時間を自由に利用することができるかどうかによって判断されます。
まかないを食べる時間であっても、来客があった場合には途中で食事をやめて接客対応をしなければならない場合には、労働者が休憩時間を自由に利用できているとはいえません。また、実際に来客があったかどうかにかかわず、来客対応が義務付けられていると気軽に食事をとることもできません。
そのため、まかないを食べる時間に接客対応が義務付けられている場合には、休憩時間ではなく、労働基準法上の労働時間に該当します。 - ② 電話対応が必要な場合
まかないを食べる時間であったとしても、接客対応が必要な場合と同様に電話対応が必要な場合も休憩時間ではなく労働基準法上の労働時間に該当します。
電話が鳴るかもしれないという状況では、気軽にトイレに行くこともできず、まかないを食べていても、電話のそばで待機していなければなりません。
このような状態を「休憩時間を自由に利用することができた」とはいえないため、労働時間だと評価されるでしょう。
- ① 接客対応が必要な場合
4、労働時間に疑問があるときは弁護士に相談
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(1)労働時間に該当するか法的観点から判断してもらえる
労働基準法上の労働時間に該当するかどうかを確認するためには、「使用者による指揮命令下に置かれている時間であったかどうか」という実質的な判断が必要になります。
正確に判断するためには判例や行政通達に関する理解も不可欠です。
労働時間に該当するかどうかは、賃金を請求できるかどうかに関わってくるため、労働者にとっては重要な問題です。法律に基づいた正確な判断を行うためにも、まずは弁護士に相談してください。 -
(2)労働時間に該当する場合には未払い賃金の請求が可能
会社から休憩時間とみなされていた時間が労働時間に該当する場合には、本来支払われるはずであった賃金が支払われていない状態となります。
このような場合には、会社に対して、未払い賃金の請求をすることができます。
未払い賃金の請求をする際には、まずは、会社との交渉によって、未払い賃金の金額や支払い方法、支払時期などを決めていくことになります。
しかし、立場の弱い労働者では、会社に対して強く要求することができない場合も多いでしょう。
未払い賃金の請求は、労働者の正当な権利行使であるため、しっかりと請求していくことが大切です。
弁護士であれば、労働者の代理人として会社と交渉をすることができます。
「ひとりでは会社を相手にするのが不安だ」という方は、弁護士に交渉を依頼すれば、未払い賃金の計算から会社への請求まで、すべての対応を任せることができます。 -
(3)労働審判や裁判の対応も任せられる
会社との交渉では未払い賃金の問題が解決しない場合には、労働審判や裁判といった法的手段によって解決を図ることになります。
労働審判や裁判になれば、書面によって主張立証をしていく必要があり、専門的知識や経験がなければ適切に手続きを進めていくことができません。
労働者としての正当な権利を実現するためにも、未払い賃金に関する法的対応は、専門家である弁護士に任せましょう。
5、まとめ
飲食店では、従業員に対してまかないが提供されることがあります。
まかないを調理する時間やまかないを食べる時間についても、一定の条件に該当する場合には、労働基準法上の労働時間にあたり、賃金の支払いが必要になることがあります。
まかないに関する時間が労働時間に該当する場合には、未払い賃金が発生している可能性があるため、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
労働時間に関するお悩みは、ベリーベスト法律事務所まで、お気軽にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています