雇用契約書に残業代の記載がない! 会社に対して残業代請求は可能?
- 残業代請求
- 雇用契約書
- 残業代
- 記載なし
埼玉県の令和4年における毎月勤労統計調査結果(年報)によると、所定外労働時間は、9.9時間(前年比0.3%増)となり、2年連続のプラスとなりました。
残業をしているので当然ながら残業代が出ると思う方もいるでしょう。しかし、雇用契約書に残業代に関する記載がないことを理由に、残業代の支払いを拒否された場合、どうすればいいのでしょうか。
そこで今回は、雇用契約書に残業代の記載がない場合の対処法や残業代のルールについて、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスの弁護士が解説します。
1、雇用契約書に残業代の記載がない場合、請求は可能?
まずは、雇用契約書について、そもそもどういったものなのか確認していきましょう。
-
(1)雇用契約書とは? 労働条件通知書との違い
雇用契約書とは、会社側(雇用側)と労働者が労働契約の期間や賃金などについて、互いに合意したことを証明する書類をいいます。
似たものに「労働条件通知書」がありますが、労働条件通知書は会社側から労働者へ一方的に交付されるものであり、雇用契約書は双方合意のもと、労働者が署名・捺印したものです。また、労働条件通知書は書類の交付を会社の義務として課されていますが、雇用契約書は任意であり、会社には書類締結の義務がありません。
そのため、「そもそも雇用契約書を受け取っていない」という方は、労働条件通知書の記載を確認してみましょう。
また、労働基準法15条によって、会社側は賃金や労働時間、その他の労働条件などを労働者に書面などよって明示する必要があります。具体的には、以下のような内容です。- 労働契約の期間などに関する事項
- 就業および終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日などに関する事項
- 賃金の決定、計算および支払い方法などに関する事項
- 退職に関する事項
上記のとおり、時間外労働と賃金に関する内容が含まれているため、本来は雇用契約書や労働条件通知書に、これらに関する記載が必要です。
-
(2)雇用契約書(労働条件通知書)に残業代に関する記載がない場合
雇用契約書や労働条件通知書に残業代についての記載がなくとも、会社は残業代を支払う必要があります。労働基準法37条に残業代の支払い義務が定められているため、社内規定がないことを理由に会社が支払いを拒むことはできません。
また、雇用契約書や労働条件通知書に残業代や労働条件に関する記載があったとしても、会社側が記載内容と異なった運用をしている場合もあります。その際にも、残業代を請求できる可能性があるため、必要に応じて弁護士に相談したほうがよいでしょう。
2、残業代の基本的なルール
残業代を請求するためには、残業代のルールを理解しておかなければなりません。詳しく見ていきましょう。
-
(1)残業代の計算式
残業代は以下の計算式で求められます。
残業代=基礎賃金×割増率×残業時間
基礎賃金とは、基本給に手当などを加えたうえでの1時間あたりの賃金です。また、割増率は、時間外労働や休日労働、深夜労働などの残業に対して、通常の賃金よりも高く設定されている割合のことです。
主な割増率は以下のとおりです。- 法定外残業:25%
- 休日労働:35%
- 深夜労働:25%
-
(2)法定外・法定内残業の違い
法定外残業には25%の割増率がありますが、法定内残業では割増されず、通常の賃金が支払われます。法定外・法定内の違いは、労働基準法で定められている法定労働時間「1日8時間、1週40時間」を超えているかどうか、です。これを超える労働時間であれば、法定外残業として割増された賃金が支払われます。
たとえば、1日の所定労働時間が7時間30分の人が、1時間30分残業したケースを考えてみましょう。この場合、1日の労働が8時間となる残業時間30分までは割増されていない通常の賃金が、8時間を超えた1時間は割増賃金が残業代として支払われます。
これらは基本の計算方法であり、社内規定や勤務形態、雇用形態などによって残業代の計算方法は異なります。詳しくは弁護士に相談することをおすすめします。
3、残業代が発生しないケース
次に、残業代を計算するうえで考慮しなければならない、残業代が発生しないケースを解説します。
-
(1)みなし労働時間制の場合
みなし労働時間制とは、あらかじめ規定した一定の労働時間を働いたとみなす制度のことです。たとえば、1日のみなし労働時間が8時間だった場合、その日の労働時間が7時間であっても8時間働いたものとみなされることになります。
ただし、労働時間が9時間であった場合など、みなし労働時間が法定労働時間を超えた分の残業代は支払われます。さらに、休日に出勤した休日手当や深夜手当についても、同様に残業代が発生するため、自身の給与明細やタイムカードを確認してみましょう。 -
(2)固定残業代制の場合
固定残業代制とは、労働者が一定時間、残業をしたものとみなして、固定された金額の残業代を支払う制度のことです。たとえば、月の固定残業時間が20時間の場合は、あらかじめ20時間分の残業代が支払われていることになるため、実際の残業時間が20時間以内であれば追加の残業代は発生しません。ただし、実際の残業時間が20時間を超えている場合は、その超えた分の残業代は追加で支払われます。
-
(3)管理監督者の場合
管理監督者とは、労働者の指導・監督を行う立場にある者をいい、以下の条件に合致していれば、管理監督者となります。
- 労働時間や休憩・休日などの規定を超えて活動する必要のある、重要な職務を行っている
- 労働時間や休憩・休日などの規定を超えて活動する必要のある、重要な責任と権限を有している
- 労働時間について厳格な管理をされていない
- 一般労働者と比較して、賃金等が相応の待遇になっている
管理監督者は労働基準法の労働時間や休日などの制限などを受けないため、残業代は支払われません。
ただし、管理監督者であっても、その労働内容に応じて残業代の支払いが必要な場合があります。たとえば、管理監督者が深夜の時間帯で労働した場合には深夜労働となり、会社側は割増賃金を含めた残業代を支払わなければなりません。また、会社の規則や労働契約書で管理監督者に対して残業代支払い義務を課している場合もあります。
管理監督者として働く場合、その内容に応じて残業代の支払いについて確認することが大切です。
名ばかり管理職に注意
また、実際には管理監督者ではないのにも関わらず、管理職に就いていることを理由に残業代が支払われていないケースを「名ばかり管理職」といいます。
管理監督者には該当するための条件があり、その条件に合致していない管理職(役職者)は管理監督者ではありません。本来は一般社員と同様に残業代をもらえるはずです。
そのため、「管理職だから残業代は支払わない」と会社から伝えられている場合は、本当に自身が管理監督者にあたるのか、確認してみましょう。 -
(4)年俸制の場合
年俸制とは、年間の労働時間や残業時間に関係なく、年間の固定給与を支払う制度のことです。会社側は年間の給与が決定しているため、残業代の支払いは必要ないと説明してくるかもしれません。ただし、年俸制度においても、法定外労働時間を超過した場合は別途残業代を支払う義務があります。深夜労働や休日出勤した場合にも、割増賃金を含めた残業代を会社側が支払う必要があります。
4、会社に残業代を請求する方法と注意点
ここでは、会社に残業代を請求する方法と注意点を解説します。
-
(1)証拠をそろえる
労働者が残業代を請求する際、証拠をそろえることが非常に重要です。証拠例としては、労働時間や残業時間を記録した勤務表やタイムカード、メールやチャットなどのコミュニケーション履歴、残業を指示された書面などが挙げられます。これらの証拠を適切に保存しておくことが大切です。
ただし、労働者が残業代を請求できる期間には時効があります。労働基準法によれば、労働者が請求できるのは、2020年4月より後に発生した残業代について3年以内です。時効に注意し、適切なタイミングで残業代を請求しなければなりません。 -
(2)会社と交渉する
残業代を請求する場合、会社との交渉が必要になります。交渉にあたっては、以下の注意点があります。
- 交渉のタイミング
交渉のタイミングは、できるだけ早めにすることが望ましいでしょう。残業代が未払いであることを知ったら、すぐに会社に相談することが大切です。先述の時効の問題。 - 交渉の方法
交渉の方法は、面談や書面でのやりとりなどが想定できます。会社側が交渉に応じてくれない場合は、労働審判や訴訟などの手続きに進む必要があります。
交渉にあたっては、冷静であることが必要です。感情的になってしまうと、交渉がうまく進まなくなるだけでなく、場合によってはトラブルに発展することもあります。 - 配達証明つきの内容証明郵便の利用がおすすめ
労働者が会社に対して残業代を請求する場合、配達証明つきの内容証明郵便での請求をおすすめします。配達証明は、相手に確実に配達したことを日本郵便が証明してくれるサービスです。内容証明郵便とは、いつ、誰が誰宛に差し出したどのような文章なのかを謄本によって日本郵便が証明する郵便を指します。
もし会社が請求に応じなかった場合には、確実に相手に請求をした証拠として提出できるため、後の労働審判や訴訟で有効な立証材料となります。
- 交渉のタイミング
-
(3)労働審判による解決を図る
会社との交渉に問題があれば、労働審判の手続きに移ります。労働審判とは、労働者と使用者(会社)の間で労働条件に関する紛争を解決するために、労働審判委員会が仲介する手続きのことです。
労働審判では会社側と労働者が裁判所に呼ばれて、労働審判委員会による和解案が提案されます。和解案が成立すれば、和解が成立したことで紛争が解消されます。和解が成立しない場合には、労働審判が下されることになります。
労働審判で下された内容にどちらかが納得できない場合は、訴訟に移行します。 -
(4)訴訟に移行する
訴訟を起こすには、まず具体的な請求額や請求根拠を明確にし、必要な書類を用意しなければなりません。また、裁判所での訴訟は時間や費用がかかるため、弁護士の協力を得ることがおすすめです。
5、残業代請求を弁護士に相談するメリット
残業代が適切に支払われていないと思った場合は、弁護士に相談・依頼してみましょう。
労働基準法には、残業代の計算方法や支払期限などの細かいルールがあり、自分自身で正確に計算することは難しいでしょう。弁護士に相談することで、正確な残業代の額を計算してもらうことが可能です。
また、会社側が残業代の支払いを拒否した場合でも、弁護士が労働基準法や労働契約法などの法律的な根拠を持って交渉することで、支払いが認められることがあります。
もし労働審判や訴訟に移行した場合は、残業代を請求する根拠を明確にすることが大切です。弁護士に相談すれば、過去の裁判例や法律の解釈をもとにアドバイスを受けられるでしょう。また、弁護士に依頼することで訴訟手続きの煩雑な手続きを任せることができます。
消滅時効の問題もあるため、できるだけ早い段階で弁護士に相談し、正確な労働時間や残業代の請求額を確認することが重要です。
6、まとめ
雇用契約書に残業代に関する記載されていないことを理由に、残業代が支払われないことは違法となります。ただし、みなし労働時間制や固定残業代制など残業代が発生しないケースなどがあるため、それぞれの労働条件によって、実際に残業代が発生しているかどうかを調べなければなりません。
さらに、会社側に残業代を請求する場合は、会社との交渉や証拠の収集、正確な残業代の計算が必要です。労働者一人で対応するのは困難な場合もあるでしょう。
雇用契約書に残業代の記載がない場合でも、残業代を請求したいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所 所沢オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています