未成年にたばこを売ったらどうなる? 未成年者の喫煙に関する法律

2022年10月27日
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未成年にたばこを売ったらどうなる? 未成年者の喫煙に関する法律

未成年者の喫煙は法律によって禁止されています。

埼玉県警察が公開している令和3年版の少年非行白書によると、令和2年中に喫煙行為によって少年補導を受けた人は男子1728人、女子210人、合計1938人でした。平成23年当時は合計17551人が補導されていた事実と比べると、未成年者による喫煙は大幅に減少しているという状況がうかがえます。

法律によって禁止されているにもかかわらず未成年者が喫煙をしてしまう背景の多くは、たばこに対する興味や憧れでしょう。しかし、たばこは人体にとって有害であるため、とくに成長過程にある未成年者が喫煙できないように、販売店に対しても「未成年者にはたばこを販売してはいけない」というルールが定められています。

本コラムでは「未成年者喫煙禁止法」の定めに照らしながら、未成年者にたばこを販売する行為の法的な問題点や罰則、誤って販売してしまった場合の基本的な考え方やトラブルに発展した際の解決法などを解説していきます。


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1、「未成年者喫煙禁止法」とは?

未成年者の喫煙を禁じているのは「未成年者喫煙禁止法」と呼ばれている法律です。
一体どのような法律なのでしょうか?

  1. (1)法律の成り立ちや歴史

    未成年者喫煙禁止法は、明治33年に制定された非常に古い法律です。

    法律の名称は「未成年」や「喫煙を規制する年齢」の定義に応じて変遷してきましたが、現行では「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」が正式名称となっています。現行の名称への変更は、令和4年4月施行の改正民法によって、成年年齢が18歳へと引き下げられた影響です。

    令和4年4月1日から、法律上の未成年者の定義は18歳未満の者へと改正されましたが、たばこの健康被害を考慮すれば、規制年齢を引き下げるのは適切ではないという結論に至りました。

    しかし「未成年者」の喫煙を禁止する法律だと誤解されると、20歳未満の喫煙者が増加して健康被害へとつながってしまうおそれがあるので「20歳未満の者の喫煙の禁止に関する法律」へと改称されたという経緯があります。

    現在でも「未成年者喫煙禁止法」という名称のほうが一般的ではありますが、民法とは「未成年」の考え方に違いがあるという点は理解しておかなければなりません。

  2. (2)喫煙した未成年者を罰する法律ではない

    未成年者喫煙禁止法では、第1条において「20歳未満の者」の喫煙を禁止しています。この定めに違反した場合は、第2条の規定にもとづいて、行政処分をもってたばこや喫煙器具が没収されるおそれがありますが、喫煙行為そのものに対する罰則は設けられていません。

    そもそも「没収」は刑事裁判において科せられる刑罰への付加刑なので、未成年者が処罰されない以上は没収もできないという実効性のない規定です。

    本法の主旨は「未成年者の喫煙を抑止すること」にあります。
    成長期の喫煙は十分な発育を阻害してしまうという医学的なデータがあることは、すでに社会では周知の事実です。

    未成年者だけでなく、健康を損ないたくない人にまでたばこの煙を吸わせてしまう「受動喫煙」を防ぐために法律が整備され、喫煙室の設置・分離などの対策が講じられているという流れをみれば、子どもをたばこから遠ざけるのは大人としての社会的な義務だといえます。

    このような考え方から、本法では喫煙した未成年者を罰するのではなく、未成年者に「喫煙させた者」や「喫煙を許した者」を処罰の対象としています。未成年者の喫煙を禁止するのではなく、未成年者の喫煙を抑止するという観点から、本法を「未成年喫煙防止法」と呼ぶこともあります。

2、禁止される行為と具体的なケース

未成年者喫煙禁止法における禁止行為を挙げながら、どのような場合に法律の規制を受けるのかを確認していきましょう。

  1. (1)保護者などが未成年者の喫煙を知っていたが制止しなかった

    未成年者喫煙禁止法第3条は、親権者や監督者が未成年の喫煙を知りながら制止しなかった場合は「科料」を科すと定めています。科料とは少額の金銭徴収を科すもので、1000円以上1万円未満の徴収を受ける刑罰です。

    • 子どもが自宅でたばこを吸っているのにやめるよう注意したり、たばこを取り上げたりしなかった
    • 児童施設の職員が入所児童の喫煙をとがめることなく容認した


    未成年者の喫煙を抑止するためには、未成年者の家庭や周囲の大人による生活指導が欠かせないので、罰則を設けて規範意識を高めようというのが本規定のねらいです

  2. (2)販売店が未成年者にたばこや喫煙器具を販売した

    未成年者が使用する目的であることを知りながら、たばこや喫煙器具を販売する行為は、未成年者喫煙禁止法第5条の違反です。販売者には50万円以下の罰金が科せられるほか、第6条の規定によって、従業員などが販売した場合でも法人や営業者に同じ罰則が適用されます。

    ここで問題となるのが「年齢確認」です。
    第4条には、たばこ・喫煙器具の販売者に対して、20歳未満の者の喫煙防止に資するために年齢確認など必要な措置を講じること、という定めがあります。

    販売者は、第5条の違反を犯して未成年者の喫煙を許してしまう事態を防ぐために、身分証の提示を求めたり、客自身に「20歳以上です」というタッチパネルを押してもらったりすることで年齢を確認しなければなりません。年齢確認は販売者に課せられた努力義務なので、年齢確認を怠っただけでただちに違反にはなりませんが、年齢確認を怠ったうえで未成年者にたばこ・喫煙器具を販売すると違法です。

    なお、近年では火をつけて燃焼させる従来からの紙たばこや巻きたばこに加えて、火を使うことなくたばこ葉を加熱し蒸気を発生させる「加熱式たばこ」も普及しています。加熱式たばこは本体のみでは喫煙できませんが、喫煙器具に該当するため未成年者には販売できません。

3、未成年者にたばこを販売しても違法にならないケース

たばこや喫煙器具を取り扱っている営業形態だと、たばこなどを買いに訪れた未成年者に直面する機会は決して少なくはありません。中学校や高校の制服を着用している、外見からみて明らかに未成年であるといった客にたばこなどを販売すれば違法になるのは間違いありませんが、ここで挙げるようなケースでは罪を問われない可能性があります。

  1. (1)相手が未成年者だとわからなかった

    一見するだけでは未成年者とは判別できず、20歳以上だと勘違いして販売した場合は「未成年者が使用する目的だと知っていた」とはいえません。たばこ・喫煙器具の販売が違法となるには「未成年者だが販売しよう」という故意が求められるので、相手が未成年者だとわからなかった場合は違法にならないというのが基本的な考え方です。

    「未成年者だとは思わなかった」といったミスを防ぐために年齢確認が実施されているわけですが、実際の営業では年齢確認を徹底できない場面も生じます。外見が幼くみえるからといって、未成年であるとは限りません。客に対して失礼にあたるかもしれないという状況があったり、レジが混雑していたりすると、誤って未成年者にたばこなどを販売してしまうこともあるでしょう。

    とくにミスであっても罰するという規定がない限り、故意のない行為は処罰されないのが原則なので、うっかり未成年者にたばこなどを販売しても処罰されません

  2. (2)未成年者が年齢を偽った

    販売時の年齢確認はあくまでも努力義務です。客が「20歳以上だ」と自己申告してそれを信用するしかなかった、身分証の提示を求めたが「持っていない」と断られた、身分証の生年月日が偽造されていたといった状況であれば、販売した側は罪を問われません。

    一方で、明らかに未成年者なのに「20歳以上だ」と主張したので販売した、身分証の顔写真が明らかに別人だったといったケースでは、通常の注意を払えば未成年者であることは看破できたはずだと罪を問われるおそれがあるので、注意が必要です。

4、未成年者へのたばこ販売でトラブルに発展したら弁護士に相談を

未成年者に対してたばこ・喫煙器具を販売したとして警察に容疑をかけられているなど、トラブルに発展してしまった場合は今すぐ弁護士に相談しましょう。

  1. (1)法律に照らして問題の争点をピックアップできる

    未成年者喫煙禁止法は、刑罰が定められている以上は「処罰法」という位置づけではあるものの、販売店や業界団体に協力を求める規定があるなど、行政的な性格が強い法律です。法律の目的に照らすと「行為を罰する」よりも販売システムやフローの整備を進めるほうが実効性が高いうえに、販売側には年齢確認などの強制力もないので、警察もやみくもに事件化する方針をとってはいません。

    管轄の警察から「事情を尋ねたい」という要請があった場合は、どのような点が問題だったのか、ミスを防ぐために必要な措置を講じていたのかなどを詳しく分析して、説明を尽くす必要があります。
    未成年者喫煙禁止法の内容に照らしながら対応を検討しなくてはならないので、弁護士に相談してアドバイスを受けましょう

  2. (2)事件に発展した場合の弁護活動を依頼できる

    未成年者喫煙禁止法違反の容疑をかけられて事件に発展してしまった場合は、誤って未成年者にたばこなどを販売してしまった状況を客観的に証明する必要があります。単に「20歳以上だと思った」「客が20歳以上だと申告した」と主張するだけでは捜査機関や裁判官の信用を得るのは難しいでしょう。

    弁護士に相談すれば、故意に未成年者に対してたばこなどを販売したのではない証拠の収集や捜査機関への対応を一任できます。
    取り調べを受ける際の対応についてもアドバイスを得られるので、警察や検察官のもとへ出頭を求められても冷静に対処できるでしょう。

5、まとめ

未成年者へのたばこ・喫煙器具の販売は「未成年者喫煙禁止法」によって禁止されています。販売店としては、客に年齢確認の協力を求めるなどの対応を徹底しているはずですが、年齢確認に応じない、年齢を偽るなどの行為をどのように解決していくのか、経営面の問題と相まって難しく感じていることでしょう。

未成年者にたばこなどを販売してしまったとしても、ミスによるものなら処罰されません。警察に容疑をかけられてしまった場合は、弁護士に相談してサポートを受けながら、故意に販売したのではないことを証明していく必要があります。

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  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています